直井里予「Yesterday Today Tomorrow ~昨日 今日 そして明日へ・・・」●MOVIEレビュー

この映画の登場人物たちは「HIV感染者」である。
「HIV感染者」
・・・この言葉に接したとき多くの人は、ただそれだけで「自分との距離」を感じやすい。旧来の固定観念やメディアから与えられただけのイメージに当てはめ容易に「差別」し、彼らを「一人の人」として想像しなくなったりする。
こうした他者への想像力の貧困・正しい知識に基づく思考能力の欠如は、やがて人と人との間に壁を作る。これまで数多くの悲劇を人類にもたらしてきた原因は、その壁だ。為政者たちは僕らがいつの間にか設けてしまう壁の機能に付けこみ、言葉を巧みに操り相互不信を煽ることで数々の争いを扇動したりもしてきた。映画も、その歴史においてプロパガンダの「道具」として積極的に利用され、争いを煽ってきた苦い歴史がある。そして今でも・・・多くの映画が、そんな「道具」の一つに堕してしまっていると言っていい。
しかしこの映画は違う。真の「映画の魅力」に満ちている。「言葉」では到達出来ない、映像ならではの豊かな魅力で溢れている。その違いはなんなのか。
生きるのが上手な人たち

その男女はタイに住むHIV感染者。免疫力が低下し薬を飲み続けながらの生活なのだが、この映画ではそうした側面をことさらに強調することはない。彼らが明るく過ごす日常に寄り添いながら、一刻一刻を一緒に感じ、生活の実感を丁寧に静かに切り取って行く。
畑で農作業に精を出したり、魚や蛙を売って歩いたり。木の実を取って食べたり。生業の中にある文化の深みに敬意を示しながら、日本人である女性監督は撮影を通して彼らと親交を深めて行く。彼らの暮らしを見つめる透明な眼差しは、どこまでも素直だ。素直に見つめるからこそ、何でもない瞬間の中に潜む、たおやかな生の輝きをそのままに、映像表現として昇華することが出来たのだ。
互いへの思いやり。決して争わずに調和する精神。
彼らは「生きる」ということの本当の楽しみ方を知っているかのようだ。タイの田舎町独特のゆるやかな時間の流れ。生きていることの悦びをゆったりと感じている彼らの日常は、ただそれだけで「詩」なのである。
力強く告発するよりも。観客を安っぽい言葉で啓蒙するよりも。
もっと深い部分で共振し共鳴できる映画のあり方。
押し付けない表現。
押し付けないということの「本当の強さ」。

「 Yesterday Today Tomorrow ~昨日 今日 そして明日へ・・・」
(日本・タイ/2005/90分/カラー)
監督・撮影・編集:直井里予
製作:アジアプレス・インターナショナル
主催:シネマトリックス
●公式サイト
● 「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2006」にて上映。
(すでに、この作品の上映は終了)
→質疑応答での監督の発言はこちら。
●自主上映会申し込み受付中。
→FC2 同性愛Blog Ranking
NEWS!大阪で9/29に上映あり。
◆大阪 吹田市勤労者会館
吹田市昭和町12-1 TEL:06-6382-9121
入場料金:500円(一般可・申込不要)
【上映日程】
9/29 (金) 1回目 14:00-15:30(監督トーク 15:40-16:10)
2回目 19:00-20:30(監督トーク 18:30-19:00)
【主催/お問い合わせ先】
記録映画「昨 日今日そして明日へ…」上映実行委員会
(代表 尾浦芙久子)E-mail:fukukooura@sutv.zaq.ne.jp
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