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2023-09
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ブロークバック・マウンテンで見る世界012●ハリウッドに刺激をもたらしたのは、アウトサイダーの視点だった。

 前回は岡田敏一記者による分析記事を紹介しましたが、その翌日には、毎日新聞の夕刊に國枝すみれ記者による充実した分析記事が掲載され、注目すべき観点を与えられました。
 今回の授賞式で飛びぬけて注目を集めた2作品、「ブロークバック・マウンテン」と「クラッシュ」には、大きな共通点が2つあります。
 両作品とも(結果的に)アメリカ社会における「差別構造」と「偏見」を浮き彫りにしたということ。そして、両作品の監督ともに「米国人ではない」ということです。
 記事では、多くの記者にとって「予想外」だった作品賞発表直後の「どよめき」に触れた後、両作品の内容を掘り下げて紹介しています。(記事中の「~」は中略を意味します。)

●毎日新聞・3/8(水)夕刊
第78回アカデミー賞授賞式
米国の差別と偏見 えぐった外国人監督
 

 第78回アカデミー賞が焦点をあてたのは、米国社会に巣くう差別と偏見だった。~
 「クラッシュ」は、ヒスパニック系の修理工や使用人を信用しない白人の主婦、白人上司の差別発言には敏感に反応するのにヒスパニックに対するステレオタイプに鈍感な黒人警官などが登場する群像劇。脚本は数年前に出来上がっていたが、テーマが人種差別だけに資金のめどが立たずに難航した経緯がある。
  「見終わって議論したくなるような映画が好きだ。恋人と意見が違って別れる羽目になるような映画が作りたかった」という監督の狙い通り、登場人物は偏見を捨てられず、傷つけ合う。
 ハギス監督はカナダ人。アウトサイダーだから、米国人が当然のこととして見過ごす偏見やステレオタイプに気付くのだろう。「ちょっと待て。今、ここで何が起きた?」
と、周囲の米国人からしつこく聞き出し、アイデアを書き留めてきたことがあとで映画づくりに役立ったという。
  「映画はわれわれの心の中に巣くう疑問をぶつけただけ」というが、会見場では「米国人は性急に物事や人間を判断しすぎる。他人を非難したり、他国を指さして悪だと決め付ける前に、5秒間立ち止まってほしい」 と厳しい批判も口にした。
(ロサンゼルス・國枝すみれ記者)

 「ブロークバック・マウンテン」も、なかなか資金繰りが立たず、構想段階でいったん作品の制作は頓挫。撮影が開始されるまでに8年の歳月を要したそうですが、「クラッシュ」もやはり同じように大きな壁をクリアーして実現した企画だったようです。
 実際、物語の中心人物として、人種差別主義者で悪印象な「白人の警官」が出てきます。恐らくこの役を引き受ける白人の俳優を見つけるだけでも、相当に苦労したのではないかと思われます。
 完成した映画では、若手俳優のマット・ディロンが引き受けて見事に演じきっているのですが、彼にとってもこのような役を演じるのは、はじめての事だったようで、パンフレットのインタビューで次のように発言しています。 

 「これほど極端な人物を演じるのはとても難しかったし、不安もあった。非常に口汚く、怒りに満ちたシーンを演じるのは、自分の心をかき乱すものでもあった。僕は、彼が経験する人間的感情の多くには共感できたが、彼の行動には共感できなかった。でも、僕がこの役に引きつけられた部分は、彼が献身的な男で、父親を愛しているという思いがけない事実だった。
 僕は彼を悪い人間だとは思わない。彼は非常に熱心で、優秀な警察官でもあるんだ。自分の仕事にとても自信を持っているが、それを悪用するところもある。自分の感情とうまく折り合いをつけることができない人間なんだ。」

 スター俳優というのはイメージを大切にするでしょうから、やはり相当な覚悟が必要だっただろうと思われます。しかし彼も言っている通り、この映画には「完全なる悪人」は出てきません。この白人警官の人間描写としても、「悪いことをする面もあれば、素敵なことをする面もある」ことを掬い取っています。そして、そのことを象徴する場面は、この映画の中でも特に印象深い名場面となっています。リスクを承知で出演を決めただろうマット・ディロンの覚悟も、報われたのではないでしょうか。

 「これから同性愛をテーマにした映画の計画はない」という現実

 國枝すみれ記者の記事では、さらに「ブロークバック・マウンテン」についても言及していたのですが、ちょっと気がかりな記述もありました。 

 一方の「ブロークバック・マウンテン」も、同性愛への偏見に苦しむカウボーイが主人公だ。
 監督賞を受賞した台湾出身のアン・リー監督は、同性愛者たちが直面している偏見や拒絶などをていねいにすくいとり、差別の本質を普遍化することに成功した。
 市民組織「同性愛者を差別から守る団体」のニール・ジュリアーノ代表は、今年のアカデミー賞は総じて同性愛者のために役立ったと語った。
 性転換する男性が主人公の「トランスアメリカ」で主役を演じた女優が主演女優賞にノミネートされ、ゲイといわれる作家、トルーマン・カポーティを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンが主演男優賞を受賞していることを評価する。
「映画のおかげで、社会は同性愛についてもっと深く理解してくれたと思う」

 少なくとも、映画会社にとって同性愛はまだタブーらしい。
 ロサンゼルス・タイムズ紙の映画記者、ロバート・ウェルコス氏は5日、「ゴールデングローブ賞で『ブロークバック・マウンテン』が作品賞を受賞したあと、映画会社を取材して回ったが、これから同性愛をテーマにした映画を作るという計画を持っているところはなかった」と話している。 (ロサンゼルス・國枝すみれ記者)

 國枝記者の分析によると、今年、同性愛を描いて高い評価を受けた作品が重なったのは偶然であって、必ずしもアメリカ映画界の風潮が変化したわけでは無いというのが現実であるようです。
 たしかに、上記で指摘されている3作品のうち「カポーティ」はどうやら、作家が同性愛者であったことに焦点を当てている映画というわけではなさそうですし、昨年から今年にかけて、たまたま「ブロークバック・マウンテン」と「トランスアメリカ」の上映時期が重なっただけなのかもしれません。

 しかし上記の映画記者の証言は、あくまでもゴールデングローブ賞の時の話。その後「アカデミー賞報道の効果」でこの作品の知名度は更に上がりましたし、このまま勢いに乗って興行成績が伸びれば事情は変わってくるのかもしれません。
 同性愛を題材にした映画というと決まって付きまとう「マイナー」で「マニア向け」だという従来のイメージを払拭するのはなかなか難しいようですが、もっと大資本が制作するメジャーな作品の中にも「奇をてらわない」「フツーに生きているゲイたち」が、日常感覚のままで存在するようになるべきなのです。近年の黒人たちと同じように。

 興行成績はハリウッドへの意思表示

 アメリカ映画界にとって、日本は注目すべき重要なマーケットの一つ。「ブロークバック・マウンテン」は、すでに東南アジア地域では香港、台湾、韓国等で封切られていますが日本では公開が出遅れました。やっとこれから、満を持して全国公開が開始されます。
 世界の映画市場を席捲しているハリウッド的な市場システムは、単純で薄っぺらい一過性の娯楽大作を量産しています。その体制を揺り動かすことが出来るのは、やはり現実問題としての「興行成績」の結果なのではないでしょうか。
 「アカデミー賞効果」で異例の拡大公開が実現したこの作品の日本での興行成績は、「もっと良質な作品こそ幅広く公開されるべきだ」と願う我々の意思表示にもなるのです。

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コメント

この記事へのコメント

まあ、

同性愛に関する映画がどんどん作られまくるのが
いいとも限らないんだけれど、
やはりいい作品がたくさん出来て欲しいものです。
現実と映画の世界って、どういう因果関係があるのか
わからないけれど、クラッシュやブロークバックマウンテンのような
映画が作られることは、アメリカ社会の何がしかの
変化を伝えていると思います。
そういう意味で、色々注目すべきことがたくさんありそうです。

●kazuccineさん。

最初から同性愛に偏見が強い人は、最初からこの映画を観に行かないだろうね。
人って、自分が不愉快になるような情報にはあまり接しないようにするものだから。
日本で公開されていても、偏見バリバリの人はまず、映画館には観に行かないと思う。
だからもう少し経って、DVDやテレビで観られるようになってからが
本当の「他者との出会い」なのかもしれない。この映画にとっては。
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