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フツーに生きてるGAYの日常

やわらかくありたいなぁ。

2020-02
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イ・チャンドン「オアシス」●MOVIEレビュー

刑務所帰りの男が一人、自宅へ戻ろうとする。しかし家族は転居していた。要するに彼の帰宅は歓迎されていないのだ。
男はわざと無銭飲食をして警察に捕まり、保護者として家族は呼び出される。そんな奇妙な場面からこの映画は始まる。

「ペパーミント・キャンディー」のイ・チャンドン監督と俳優ソル・ギョングが次に挑んだのは「社会的に排斥されがちな者同士の恋」だった。
我々の常識を根底から徹底的に揺さぶろうとする野心と、社会風刺的な視線。そして鋭いユーモア感覚は前作よりもさらにパワーアップし、韓国社会の有り様に対して強烈なパンチを喰らわせている。いや~、この監督は本当にスゴイ。本物の芸術家だ。

兄の罪をかぶり、刑務所へ

ソル・ギョングが演じた主人公は、世間ではいわゆる「ちょっと頭が足りない」「知恵遅れ」と揶揄されるタイプの人。自分の欲望を抑えることができず、衝動的な行動をしてしまう。物事の計画性というものを持てない。兄からは「大人になれ」と叱られ続け、弟からは「僕の人生を壊さないで」と非難され、母親からは「息子ではない」と排斥される。それでも彼は、他に行くあてもないので家族と一緒に暮らしはじめる。
彼は表面上はいつも夢見心地で生きている(ように見える)ので「打算」があるように感じさせない。そのため他人から利用もされてしまう。なんと兄弟からも。
怖ろしいことに、映画の冒頭で刑務所帰りである理由は、実は兄が起こした交通死亡事故の罪を被り、代わりに刑務所に入ってあげていたのだ。「俺はどうせ前科があるし、兄さんは家族もあるし。」と、事故の直後に彼が機転を利かせて自ら罪を被ってあげたのだ。

被害者宅での運命的な出会い

そんな主人公はある日、花束を持ってある市民住宅を訪ねる。そこはなんと一年前に兄がひき殺した男性の家族が住むところ。ドアを開けるとそこには、重度の身心障害を抱える女性が暮らしていた。(たぶん事故の怪我によるものだと思われる。)
そして・・・あろうことか彼は彼女に恋をしたっ!
この先はぜひ映画を見て欲しいので書かないのだが・・・二人はついにはセックスまでしちゃうのだっ!(←書いちゃった。笑)。このことを「ありえね~っ」と思うかどうか。この映画を見てから判断してください。

価値の転換

彼ら二人のような「はみ出し者」を人間としては見ず、「排斥する」ことで秩序を保つ現代社会。そして「家族の名誉」という表面的な部分のみを取り繕うことが最優先される欺瞞性を徹底的に暴きだす監督の手腕は見事。

しかし、こうしたテーマを扱う作品にありがちな「啓蒙性」の押し付けがましさや嘘臭さは、この映画には全くない。なぜなら、誰も「聖人」は出てこないからだ。主人公もヒロインも、ずるい所もあれば嫌な面もある。衝動の赴くままに欲望をむき出しにする瞬間もある。ごく当たり前の、聖も俗も併せ持った存在としてちゃんと描かれているから人間描写として深いのだ。なおかつエンターテインメントとしても成り立っている。見ていて楽しいしドキドキ出来るのだ。これはイ・チャンドン監督ならではの絶妙なバランス感覚なのだろう。彼は「他者に開いて行く」ことを自己の哲学として大切にしているのだろうと思う。

演技が見事っ!

この映画の主人公とヒロインは、実は「ペパーミント・キャンディー」で初恋の恋人同士を演じたコンビ。そのイメージのあまりにも強烈な変貌ぶりには圧倒されるものがある。主人公の「能天気な男」を演じたソル・ギョングの変身ぶりもすごいが、「重度の障害」を抱える女性を全編に渡って演じ続けた女優ムン・ソリは本当にすごい!。顔を歪ませ手を反らせ、身体を硬直させながら全身を使って声を絞り出す。彼女の登場シーンでは正直、「嫌悪感」に近いものを感じた。あまりにも徹底しているので直視するのが憚られる感覚に襲われるからだ。しかし、映画を見続けると、そんなことを感じた自分の「美醜意識」も見事に反転させられる。

正常と異常

「障害者」だとか「反社会的人間」というレッテルは、見方を変えたり視点を変えれば本来的には誰に対しても当てはまるものだと思う。だからこそ、表面上わかりやすい形で表出している人たちのことを「異常者」だと簡単に排斥してはならない。誰もが聖と俗、様々なものを共存させて生きている当たり前の人間なのだ。

他人を「異常」だと言って偉そうに説教垂れたり啓蒙しようとする方というのは、いつの世にも存在して人気を得やすいものなのだが、本当に本人は「正常」なのか。「正常」な部分のみで出来ている「聖人」なのか・・・。
自分のことを「正常」だと言い切って善人ヅラする人間ほど異常な奴はいない。本当にそう思う。

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コメント

この記事へのコメント

ぬぁ~~~~~!
これ、観たいと思ってて結局観れなかった映画です(><)
思い出させてくれて、ありがとうございます(笑)
なんかのテレビ番組で紹介されてて、
障害を持つヒロインの演技に釘付けになりました。
五体満足、何も障害のない体を持つ人のことを「健常者」と言いますが、
障害を持つ人が「異常」かと言うと、そうじゃない。
見た目に障害があると判別できる人への差別はもちろん、
例えば自閉症であるとか、精神疾患を持つ人のような
外見ではわからない障害を持つ人への 無理解な差別も多いけど、
たまたまそういう(障害を負う)状況になっただけで、
本質はみんな同じ人間なんですよね。
障害者のことを「かわいそう」って言う人がいるじゃないですか。
これこそ、障害者を自分より下に見ている典型的な表現だと思います。
なんか、この映画の話とずれてきたかな。。。(爆)

●kajukajuさん。

ぬぁ~~~~~!
見てないんなら絶対に見なきゃ~!(笑)。
この映画、日本公開時の宣伝文句では「珠玉の恋愛映画」だとか
「世界中が涙した」だとか、甘ったるい言葉が並べられてますが
そのつもりで見てしまうと、かなり重症の火傷を負います(笑)。
客を集めるにはしょうがないのでしょうが、ああいった宣伝方法のせいで
ずいぶん損をしてしまったのではないかと感じました。
これほど鋭く、毒を秘めた映画はないのではないかと驚くくらいに
とってもラディカルな映画です。
芸術と言うものは、それに触れた人の価値観をどれだけ揺さぶることが出来るのかで
価値が決まると僕は思うのですが、この映画はそういう意味で芸術です。

障害者のことを「かわいそう」と言う人の心理って、
「自分はかわいそうでなくてよかった」という自己肯定なのだと思います。
よく知らないからそういう安直な言葉を言ってしまえるのであって、
付き合ってみたら彼らもやっぱり人間。
それどころか「健常者」と呼ばれる人々よりもずっと素直に感情を表現するので
とてもわかりやすいし、人間の持っている色んな面を
むき出しにして生きている、すごい人たちなのだと思います。


本当に良い映画です

ラストが好きですね~
凄くたくましくて、未来があって
障害者の性を描いた映画って日本映画にも少しあることはあるんですが、ここまで赤裸々に描いたものは思い当たらないので、それだけで、この監督やるな~って思いました^-^

Happy Spring Festival

幸せなスプリングフェスティバル!
犬の年に、皆のワンワン(犬の声だ、中国語に「盛ん」と「繁栄」と同じ意味だ)を祈ります!
ご幸せ!

ムン・ソリさんは、撮影中、体が痛くて仕方なかったと語っていました。(前に、TVで紹介された時にです)
障害というのは、統合失調症などの精神的な病気は、かなり難しいのですが、体だけ不自由と言う程度なら、まだ軽いと思います。
その内に、DVDで見る事が出来るでしょう。
話しは違いますが、akaboshiさんが感動した映画のタイトルを教えていただけませんか?確か、僕らの抵抗・・・・と書かれていたと思うのですが。

●とのさん。

ラスト、すごいですね本当に。
僕が今まで見た中で最高のラブシーンだと思う。

●wikaさん。

Happy Spring Festival!
中国の春節を祝う様子は、日本のマスコミでもたくさん報道されましたよ。
爆竹が解禁になって、お祝いも華やかだったんじゃないでしょうか。
よい休暇を過ごしてくださいね。

●seaさん。

身体と精神は密接しているので、重い・軽いは他人が判断するものではないと思います。
映画は「ベルリン、僕らの革命」でしょうか。

体と精神とは、akaboshiさんのおっしゃるように、密接している場合もありますが、そうでない場合もあります。躁鬱などでは,本人自身が良く解らない時もあり、そういう意味で、私は書きました。
映画のタイトル、教えて頂きありがとうございます。
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