メディアと性的マイノリティ07●中村中さんが紅白歌合戦に出た時に

2010年10月17日(日)に開催されたメディアと性的マイノリティについて考えるディスカッション。(主催:dislocate。会場:「3331 Arts Chiyoda」)
こちらとこちらから続く三橋順子さんのお話です。朝日新聞が今年(2010年)9月に夕刊で連載した『ニッポン人脈記 男と女の間には』では、多様なトランスジェンダーの生の有り様と周囲の人々との豊かな関係性が丁寧な取材で描かれました。前回の記事で言及されていたように、日本でも同性愛治療に電気ショックが用いられていたという事実を掘り起こした同シリーズ。他にもこんなエピソードが紹介されています。
07●中村中さんが紅白歌合戦に出た時に
パネリスト
伊藤悟さん(すこたんソーシャルサービス)/三橋順子さん(女装家・性社会史研究者)/akaboshi(島田暁/ブログ「フツーに生きてるGAYの日常」)
■メディアと性的マイノリティ~「ジェンダーとセクシュアリティの媒介」PLAYLIST
★以下、こちらの記事からの続きになります。

それから衝撃的だったのが、シンガーソングライターの中村中さんが紅白歌合戦に出た時に・・・2007年の大晦日ですね。いわゆる「性同一性障害に苦しまれて」っていうナレーションで紹介されて、お母さんの「ごめんなさいね」という手紙を鶴瓶かなんかが読み上げて、本当は中村さんはそこで涙を流しながら歌わなきゃいけなかったんですNHKの演出としては。
だけど中村さんはその時に「お涙頂戴なんてごめんだよ」と内心思いながら、涙一つ流さずに歌ったということを御本人が語っているのを朝日新聞がちゃんと書いたんですけども、これもやっぱり、すごく画期的なんですね。要するに、NHKも民放も皆、性同一性障害に対しては「お涙頂戴」でやって来たのを、当事者の中にも「それは嫌だよ」と。でも、プロダクションとNHKとの力関係でしょうがないと。だけど内心、自分は嫌だったんだと。
●中村中 友だちの詩
★中村中『友達の詩』

★能町みね子『オカマだけどOLやってます。』
今までそういう言説っていうのは実はメディアにほとんど出てこなかったです。要するに「性同一性障害っていうのは、かわいそうな人たちで、批判をしてはいけない」という形が、メディアで一般的だった。でもそれが崩れて来てる。「性同一性障害のおかしいところはおかしい」という形に、やっとメディアがなってきたという点でも、この特集は画期的だったかなと思うんですね。
私は最終回に出させていただいたんですけれども。私に関しては「一切、性同一性障害という文字は使うな」と。それだけが私の条件で。実際なにも出てこないんですけどね。まぁ、使わなくても記事になるんですよ。要するに性同一性障害という病理化のアイテムを使わなくてもトランスジェンダーは生きて行くわけですし、生きて行く世の中にしていかないといけない。私はずっとそういうことでやって来たし、この記事が一つの価値があるとすれば、そういう形を、いわゆるメディアの一面に取り上げてもらえるところまで、やっと来た。もちろん私個人の努力だけではなく、性同一性障害の方も含めて、ニューハーフの方も含めて、ニューハーフ、性同一性障害、トランスジェンダー。それぞれの人たちがそれぞれの主張でメディアに、この10年ずっと働きかけてきた。
性同一性障害の方たちも一方的に取材される時代ではなくて、自分たちの求めるものをメディアの中にどう反映させるかという戦略的な努力というのは、この何年間か、すごくされているんですね。山本蘭さんというgid.jpの代表の方はかなり戦略的な方ですので、それをかなりきっちりやられてる。

私と出会ったのは、さっき性教育問題の話が出ましたけれども、今から思うと不思議なんですけれども、足立区立十一中学校の文化祭。生徒会主催のシンポジウム「差異と差別を考える」。それのゲストが、三橋順子とはるな愛だったんです。それが2001年ですね。だから2001年位だとまだやれたんですよそういうこと。その後やれなくなった。
愛ちゃんがまだぜんぜん売れてない頃で、2008年頃から売れ始めたのかな?非常に「良かったなぁ」と思うのと同時に、さっきの(24時間テレビの)マラソンの時のスタジオの扱いなんてのは本当に酷いなと。彼女がどういう思いで生きてきて・・・。あの人は「女になりたい人」ですからね。子どもの時からそうだったんです。だけど、ああやってテレビに出るためには、自分の夢であるタレントになるためには割り切ってるんですよね。「男」性を暴かれることとか。「男」性を出すことを求められることとか。あれは完全に演出です。
『クイズタイムショック』で上をぐるぐるぐるって廻る時に、愛ちゃんは足を開くんですよ。スカートを履いてるのに足を開く。プロのニューハーフが、あの位の回転で足を開くようなことは絶対にあり得ないんです。カルーセルさんの時代じゃないですけど股に紙を挟んでトレーニングするような人たちですから。あれはもう完全に演出なんですね。求められる。あるいは、愛ちゃん頭いいから先に気付いてやる。そういうところを、なぜああいうメディは、どんどんどんどん拡大、クローズアップしないと、ああいう扱いが出来ないのか。

実を言うと私、今日ここに伺った目的の一つは、その一方でなぜ、ゲイ・レズビアンに関するメディアの報道のありようというのは、この10年間、質量ともに、むしろ落ちてるんじゃないかと思われる部分がある位、取り上げられないのか。いちばん端的に言えばちょうどこの朝日の記事が出た時のちょっと前ですね、8月の14日の東京プライドパレード、一度途絶してせっかく復活した。しかもakaboshiさんのブログやYouTubeを見ればわかるとおり、とても華やかに盛大にやってた。ところが、私ちゃんと調べたつもりなんですけど、一切新聞に載らない。全国紙にも載らない、東京の地方紙である東京新聞にも載らない、共同通信も配信しない。それはなんなんだろう?なぜなんだろう?正直不思議なんです。
もう一つ驚いたのが、それが14日ですよね。15日は終戦記念日で、もしかしたら載りにくいのかなぁとも思ったんですけども、毎日新聞は19日だったかな8月の。スウェーデンのストックホルムでの性的マイノリティのパレード、祭典の記事を、けっこう大きく載せてるんですよ。なぜスウェーデン、ストックホルムのことをこれだけ記事にし、あるいは、オーストラリアのメルボルンのマルティグラの記事は必ずこれくらいの写真とともに載ったりする。なぜ外国のそういう人たちのイベントは、少なくとも報道するのに、なぜお膝もとの東京のことは報道しないのか。そのカラクリこそ、すごくこれは重大な問題をはらんでる。
さっき言った「東京化粧男子宣言」なんて、規模はまだまだ小さいんですよ。だけども、新聞はまだ出してないけども、いずれ出ると思うんです、もうちょっとメジャーになってから。出す方向でやってます。戦略的に。いずれ、女性のミスコンの日本代表が決まるのと同じように。
あ、それで思い出した。はるな愛ちゃんがタイのミス・ティファニーで世界一になった時に、スポーツ写真は大々的にカラー写真で載せました。カラーコピーするのが大変だったんですけども。それだけじゃなくて、朝日新聞はこれ位の記事ですけども、写真入りで載せたんですよ。それを考えたら何故、東京のパレードが全く載らないかっていうのは、かなり不思議なことで、特に当事者性を持つ方は、かなり深刻に考えないといけないんじゃないかなというのを思ったんです。それで今日、両サイドにいらっしゃるお二方に「それはなんなんですか?」というのを質問したくて来たんで、後でちょっと教えてください。

ありがとうございました。「性的マイノリティ」と一言で言いましても、男女の二元論に当てはまらない「間」のところにいろんな人たちが居るんですけども、今、メディアに乗りやすくなっていると三橋順子さんが説明なさいましたトランスジェンダー、いわゆる世間では性同一性障害と語られることが多いトランスジェンダーの人たちは、「性自認」・・・自分や社会から自分の性がどう見られたいかというところが「間」に居たり、生まれたての性から越境したいという人たちです。その人たちの問題は取り上げられるんですが、「性的指向」・・・誰を好きになるかが、いわゆる異性愛ではない人たちのことが、なかなかメディアに乗りにくいということが今、実際日本で起きているメディアの一つの問題だと思います。
三橋順子
それって外国と逆なんですよね、たぶん。
akaboshi
よく聞くのではそうですね、ゲイ・レズビアンの方が可視化が進んでいて制度も・・・
三橋順子
いわゆる欧米では。まぁ欧米が何かっていうのもありますけども。
akaboshi
セクシュアル・マイノリティの活動が活発な国であればあるほど、レズビアン&ゲイがよく見えていて、トランスジェンダーの可視化をどう進めるかというのが、今、どんどん進められているというところで
三橋順子
遅れていたわけですよね。遅れているんです。
akaboshi
日本は逆行している現状があります。<つづく>→FC2 同性愛 Blog Ranking
【三橋順子さんのブログより『ニッポン解析』関連記事】
●共同通信配信「ニッポン解析:女装楽しむ『男の娘(こ)』」(2010-08-29)
【三橋順子さんのブログより 朝日新聞『男と女の間には』関連記事】
①9月6日「見えない壁 突き破った」上川あやさん・野宮亜紀さん
②9月7日「女ごころ 裕次郎が抱いた」カルーセル麻紀さん・圭子さん
③9月8日「本当のしあわせって?」原科孝雄さん・なだいなださん・塚田攻さん
④9月9日「急げ 法の後ろだて」大島俊之さん・南野知恵子さん
⑤9月13日「パパもおっぱいあげたい」森村さやかさん・水野淳子さん
⑥9月15日「『性てんかん』黒板に書いた」虎井まさ衛さん・小山内美江子さん
⑦9月16日「ニューハーフ 薩摩に帰る」ベティ春山さん
⑧9月21日「厳しくても心のままに」瞳条美帆さん・椿姫彩菜さん
⑨9月22日「至って普通の結婚です」若松慎・麗奈ご夫妻
⑩9月27日「ゆらり揺られて 私は私」石島浩太さん
⑪9月28日「人生 面白がらなきゃ」能町みね子さん
⑫9月29日「もっと大切なものがある」中村中さん・戸田恵子さん
⑬9月29日「違いがあっていいんだよ」三橋順子・藤原和博さん

■『女装と日本人 (講談社現代新書)』
■『性の用語集 (講談社現代新書)』
■『性的なことば (講談社現代新書 2034)』
■『性欲の文化史 1 (講談社選書メチエ)』
■美輪明宏という生き方 (寺子屋ブックス)
■『トランスジェンダリズム宣言―性別の自己決定権と多様な性の肯定』
■『戦後日本女装・同性愛研究 (中央大学社会科学研究所研究叢書)』
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