メディアと性的マイノリティ06●同性愛治療に電気ショックを日本でも。朝日新聞「男と女の間には」取材が掘り起こした歴史

2010年10月17日(日)に開催されたメディアと性的マイノリティについて考えるディスカッション。(主催:dislocate。会場:「3331 Arts Chiyoda」)
前回から三橋順子さんのお話が続きます。90年代は「ミスターレディ」あるいは「ニューハーフ」としてバラエティ番組に多数出演して認知を広げたMtFトランスジェンダー。ところが21世紀になってから「性同一性障害」という言葉の認知の広がりと共に、メディアによる取り扱われ方がワンパターン化する時期が続くことになります。
そして現在。バランスよく多様な取り上げられ方がされ始めてくる中で、朝日新聞『男と女の間には』の取材の過程で、日本でも同性愛治療に電気ショック療法が実際に行われていたという、歴史的な証言が発掘されたりしました。同取材にコーディネーターとして関わられていた三橋さんの貴重なお話をどうぞ。
06●同性愛治療に電気ショックを日本でも
パネリスト
伊藤悟さん(すこたんソーシャルサービス)/三橋順子さん(女装家・性社会史研究者)/akaboshi(島田暁/ブログ「フツーに生きてるGAYの日常」)
■メディアと性的マイノリティ~「ジェンダーとセクシュアリティの媒介」PLAYLIST
★以下、こちらの記事からの続きになります。

ちょうどその頃からメディアの性同一性障害に対する扱いが、非常にワンパターン化してくる。つまり記者さんが自分の動機で取材するんじゃない、ある種のパターン、「かわいそうな人たち」「性同一性障害という病気に苦しむかわいそうな人たち」、必ず涙が出てくる悲しいお話。悲しいお話っていうのはドキュメンタリーとしては非常に視聴率が取れるんです。
「性同一性障害=かわいそうな人たち」というイメージで統一された頃から、パッタリ、ニューハーフ・女装系の番組っていうのが作られなくなるんです。これは見事なほどの転換です。上岡(龍太郎)さんの系列の番組もなくなっちゃったし、ニューハーフがほとんどメディアに出ない。女装も全く出ない。私には全くお声がかからなくなる・・・という時代が、2003年位から2008年位までの5~6年、日本のメディアは性同一性障害一辺倒です。ゲイ・レズビアンも出ないですよね。
伊藤悟
そうですね。

もう、本当に性同一性障害だけ。ところが、当たり前なんですけども、同じパターンしか作れないわけですよ。お涙頂戴、いろいろ違ってもお涙頂戴番組。で、メディアも飽きるわけです。たぶん飽きたからなんだろうと思うんですけども、昨年(2009年)の後半位から風向きが変わってきたんです。わかりやすく言うと、私のところに何年かぶりに大手メディアからメールが来る。
いくつかあるんですけども、今年の8月に出た共同通信が作った記事で共同配信の記事で、『ニッポン解析』という中で、「ファッションとしての女装」を扱う非常に真面目な特集記事を作って、京都新聞とか神戸新聞とか北海道新聞とか、もっとたくさんの新聞に載ったんです。サブカルチャーとしての女装ブームというものを、メディアが真面目に取り上げてくれた。
実は、その一つ前に、日本人の目に触れないのが微妙なんですけども、取材に来たのは昨年の12月なんですけども、今年の2月の初めにNHK国際放送(NHK World)、英語放送ですね、世界に配信している。そのニュースの中で5~6分なんですけども、「現代日本における女装ブーム」というのを、現代の日本における社会現象として番組を作って世界に報道した。メインは早稲田大学の4年生の男の子で。これもねぇ、「時代が変わったなぁ」と思うんですけどね。地方公務員の就職が決まっていて、東京生活の最後の思い出に、プロのちゃんとしたメイキャッパーに女装さしてもらって、ドレスを着て記念写真を撮ろうということで横浜の女装クラブに行って写真を撮る。

現状を言うと、性同一性障害一辺倒だったのが、ややサブカルチャー的な女装文化というものの報道も復活してきて、はるな愛ちゃんが大活躍をしてニューハーフ系の人も、あるいは椿姫彩菜ちゃんが出てきたりということで、最近は佐藤かよさんだったかな?ファッションモデル。ああいう若い人も出てくるようになってきて。今、非常にバランスが良くなってます。たまたまかもしれませんが。
そしたら、今年の4月に朝日新聞社の記者さんからメールが来まして、朝日新聞の夕刊の一面の下の方に・・・まさにこの時は「中国3邦人釈放」という大きなニュースがあった時に、一番下は広告欄でその上の所、ここに、『ニッポン人脈記』という連載を、いろんなテーマでしているんですね。今は「癌を生きる」っていう、癌を克服したり癌と共存したりしている方の連載が載ってます。
この特集は「男と女の間には」という特集だったんですけども、この前の特集が、すごくお金をかけた海外取材で「イラク戦争」でした。「イラク戦争」→「男と女の間には」→「癌に生きる」という、そういう特集の並び。その前はたしか釜ヶ崎。大阪の元の「ドヤ街」ですね。釜ヶ崎を生きる人たちの特集だったんですけども、そういう中で、13回の連載特集をしたいと。

現に、13回の連載のうちの1回目は世田谷区議会議員の上川あやさん、まぁいちばんわかりやすいところから入ってくる。だけどもう2回目で、カルーセル麻紀さんと、ペアになった方が、圭子さんという、岐阜の柳ヶ瀬でスナックをやってらっしゃる、今年古希を迎える、70歳になる方なんですけども、1960年代に、カルーセルさんより10年以上前に手術をしてる方なんです。
その方のインタビューに私も実は同行したんですけれども、その方が16歳の時に、同じ高校の先輩とセックスしてるところを先輩の親に見つかって、親同士で連絡があって、札幌の方なんですけども、すぐに北海道大学医学部病院に連れて行かれて、すぐに「真性同性愛」で、札幌の郊外の大きな私立病院に強制入院させられて。一ヶ月間毎日電気ショックをかけられてるという。そのことがお話に出てきて。
私は50年代~60年代、アメリカを中心に、同性愛者に「治療」と称して電気ショックをしているというのは知識としては知っていたんです。だけど、「(日本で)された方」に初めてお目にかかったというか、直接お話を聞いて。非常に温厚なおばあさんという感じの方なんですけども、その時だけは目に怒りがメラメラメラっと。「これだけは書いてください。私も長いこと生きてきて、あれほど辛く悲しかったことは無かったです」と。
バチッて高圧電流を当てられると、そのままパタンと失神しちゃうんですね。要するに夜、寝る前にやられるんです。そのままパタンって寝て朝起きると、前の日の記憶が一部欠落している。それの繰り返し。その方は「こんなことをされてたら本当におかしくなっちゃう」と思ったわけで。一ヶ月ちょっと経った時に「看護婦さんを好きになりました」と嘘を言って。その看護婦さんはさんざんいじめられた看護婦さんだったらしいんですけども。「男のくせに男が好きなんて」っていう風にいじめられた看護婦さんらしいんですけども。

他にも、「はっきり言ってこんな話聞いたよ」というような・・・虎井まさ衛さんと小山内(美江子)さんの話とかですね。要するに『金八先生』(2001年)の、上戸彩がやったFtMの話とか。そんなのもあったんですけども。ベティ(のマヨネーズ)のママさんが故郷の薩摩の老人ホームの慰安を毎年やってるとか。それから、私やっぱり衝撃的だったのは歌手の、シンガー・ソングライターの中村中さんが・・・<つづく>→FC2 同性愛 Blog Ranking
【三橋順子さんのブログより『ニッポン解析』関連記事】
●共同通信配信「ニッポン解析:女装楽しむ『男の娘(こ)』」(2010-08-29)
【三橋順子さんのブログより 朝日新聞『男と女の間には』関連記事】
①9月6日「見えない壁 突き破った」上川あやさん・野宮亜紀さん
②9月7日「女ごころ 裕次郎が抱いた」カルーセル麻紀さん・圭子さん
③9月8日「本当のしあわせって?」原科孝雄さん・なだいなださん・塚田攻さん
④9月9日「急げ 法の後ろだて」大島俊之さん・南野知恵子さん
⑤9月13日「パパもおっぱいあげたい」森村さやかさん・水野淳子さん
⑥9月15日「『性てんかん』黒板に書いた」虎井まさ衛さん・小山内美江子さん
⑦9月16日「ニューハーフ 薩摩に帰る」ベティ春山さん
⑧9月21日「厳しくても心のままに」瞳条美帆さん・椿姫彩菜さん
⑨9月22日「至って普通の結婚です」若松慎・麗奈ご夫妻
⑩9月27日「ゆらり揺られて 私は私」石島浩太さん
⑪9月28日「人生 面白がらなきゃ」能町みね子さん
⑫9月29日「もっと大切なものがある」中村中さん・戸田恵子さん
⑬9月29日「違いがあっていいんだよ」三橋順子・藤原和博さん

■『女装と日本人 (講談社現代新書)』
■『性の用語集 (講談社現代新書)』
■『性的なことば (講談社現代新書 2034)』
■『性欲の文化史 1 (講談社選書メチエ)』
■美輪明宏という生き方 (寺子屋ブックス)
■『トランスジェンダリズム宣言―性別の自己決定権と多様な性の肯定』
■『戦後日本女装・同性愛研究 (中央大学社会科学研究所研究叢書)』

『しみじみと歩いてる』第2回東京上映会
11月23日(祝)14:00上映(トーク付き1300円)
会場:なかのZERO視聴覚ホール
監督:島田暁/2010年制作 77分
制作:akaboshi企画
『関西レインボーパレード』で出会ったレズビアン、ゲイ、MtFトランスジェンダー、FtMトランスジェンダーそれぞれの日常生活、それぞれの違い、家族へのカミングアウト、仕事場や人間関係における葛藤や喜びを描いたドキュメンタリー。ゲイである監督の視点からまとめました。今回は映画に出演している九州のゲイ・カップルをゲストに向かえて「地方に暮らすセクシュアルマイノリティとして思うこと」を上映後にトーク。ぜひお越しください!→上映会の詳細はこちら。
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このシリーズ面白いし勉強になります。次も楽しみ。
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