60年代の岸田今日子は「性の多様性解放映画」のミューズだった。レズビアン映画『卍』、そしてゲイバー描写映画『肉体の学校』に主演

●DVDも発売中→『卍』 [DVD]
谷崎潤一郎がこの原作を書いたのは1928年(昭和3年)のこと(早っ!)。その7年後である1935年(昭和10年)には、吉屋信子原作の『乙女シリーズ その一 花物語 福壽草』が映画化(2009年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映)されるなどの動きがあったようですから、日本近代文学や映画の世界では昭和初期に「女性同性愛モノ」を描くことや、それを求める市場がある程度形成されていたようですね。(しかし戦時体制により、そうした文化的成熟はやがて一気に後退させられたようですが。)
「男性同性愛モノ」としては終戦から4年後の1949年に発表された、三島由紀夫の『仮面の告白』が先駆的な作品と言われているわけですが、昭和初期にはどうだったのでしょう?気になるところです。
●『仮面の告白』(新潮文庫)
ところで。この「卍」は日本映画界でも愛されている原作のようでして、以下の通り4度も映画化されています。なんとな~く、異性愛男性向けの「AV」的な需要に応じているような雰囲気も感じられます。(たぶんそういう側面が強いのでしょう。)
1964年7月25日に増村保造監督、若尾文子と岸田今日子の主演で映画公開→[DVD]
1983年2月12日に横山博人監督、樋口可南子と高瀬春奈の主演で映画公開→[DVD]
1998年3月6日に服部光則監督、坂上香織と真弓倫子の主演で映画公開→[VHS]
2006年3月25日に井口昇監督、秋桜子と不二子の主演で映画公開→[DVD]
●YouTubeより~映画『卍(まんじ)』予告編
「禁断の恋に落ちる」とか「彼女らの奔放な性の行状」といった表現に、昭和初期の文学が持っていた「同性愛観」が滲み出ているわけですが、その後の映画化によって描かれ方に変化があるのか?ないのか?も含めて、比較鑑賞してみるのも面白いかもしれません。<増村保造監督版・作品解説>(amazonより
)
・・・柿内弁護士(船越英二)の妻、園子(岸田今日子)は美術学校で知り合った若い娘光子(若尾文子)と禁断の恋に落ちる。彼女との永遠の愛を信じていた園子の前に、光子の婚約者と名乗る綿貫(川津祐介)が。実は綿貫から逃れたいのだと言う光子に、園子は光子と心中の芝居を打つ。ところが、駆けつけた柿内は光子と関係を持ち、溺れていく。光子に翻弄され続ける園子。ある日、綿貫は彼女らの奔放な性の行状を新聞に暴露する。追いつめられた3人が選んだ道とは…。
谷崎潤一郎の同名小説の映画化1作目。監督は『兵隊やくざ』『陸軍中野学校』の増村保造。谷崎文学の官能的な世界を忠実に映像化。当時20代の若尾文子の小悪魔的な演技が光る。(仲村英一郎)
さて岸田今日子さんといえば『卍』の翌年には、木下亮監督『肉体の学校』に主演。こちらでは、池袋のゲイバーに入り浸ってバイセクシュアル男性(山崎努)への恋に溺れて行く有閑マダムを演じるなど、1960年代の日本映画において数少ない「セクマイが描かれた映画」に2本も主演されています。1964年の勅使河原宏監督『砂の女』でも、香り立つように性的な存在である女性を演じており、当時の日本映画界で「性描写」が積極的に推進され、その世界観を体現できる代表的な女優として存在していたのだということがわかります。
そんな彼女だからこそ、当時においては画期的な表現だったであろう「レズビアンもの」や、「バイセクシュアル男性に溺れるマダム役」が舞い込み、見事に「ミューズ」としての役割を果たしていたのでしょうね。
DVD化されていないのでなかなか観ることが出来ない『肉体の学校』ですが、6月13日(日)~19日(土)にラピュタ阿佐ヶ谷で開催される岸田今日子特集上映で観ることが出来ます。60年代のゲイバー風俗が見事に活写されていることでも見応えのあるこの映画、ぜひ機会を見つけて御覧になることをオススメします。『薔薇族』も創刊されていなかった時代にセクマイ当事者たちをドラマとして再現した活気に、僕は大いなる刺激を受けました。→FC2 同性愛 Blog Ranking
スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
トラックバック
この記事のトラックバックURL
⇒ http://akaboshi07.blog44.fc2.com/tb.php/2132-b9f3c628
この記事へのトラックバック