馮小剛「狙った恋の落とし方。:非誠勿擾」●MOVIEレビュー

★公式サイト
フォン・シャオガン監督は中国No.1ヒットメーカーで、なんとこの映画は2009年に中国映画史上最大級の興収50億円を記録したのだとか。お金と時間ならば有り余っている中年男が、人生における心の伴侶を求めて「婚活」する様子を描いているのですが、劇中、主人公とヒロインが旅をすることになる北海道は「一大ブーム」になり、社会現象化したそうです。
そんな超メジャーヒット映画の冒頭に、宣伝文句通りゲイ(トランス?)描写が出てきました。主人公がインターネットの出会い系サイトを駆使して「婚活」を始めた当初に、まず面会する相手として登場するのです。
しかも2人は旧知の仲。なんと主人公の前の職場で「後輩男性」として振る舞ってた人が、いわゆる女性的な「おネエ系キャラ」となって目の前に現れたのです。なんでも、ネットのプロフィールに「同性は不可」と書いていなかったため、以前から好きだった先輩の結婚相手として名乗り出て来たというのです。
結婚相手として現れるということはMtFトランスジェンダーなのかもしれません。中国では同性婚は法律では認められていませんから、「結婚相手」として相手を想定できるのは異性に限られます。つまり、現れた後輩は「女性」でなければ婚姻は成り立ちません。そうするとこの映画の新聞広告に記されていた「同性愛」というのは嘘になります。二人の関係は「同性」ではなく「異性」になるわけですからね。(そのへん、日本の配給会社のアバウトさを感じますが。笑)
台詞のやりとりでは、後輩が「女性」としての意識を持っているトランスジェンダーなのか、それとも「男性」としての意識を持ってこの場に臨んでいるゲイなのかは読み取れませんでした。まぁそれはいいんです。それよりも最も僕の印象に残ったのは、この場面における俳優の演技の自然さと、演出のナチュラル加減。つまり、ぜんぜん奇を衒って作られていなかったのです。
かつての後輩が「女性っぽく」なって目の前に現れるわけですから主人公としては当然驚くわけですが、演じている役者さん(葛優さん)が名優だということもあるのでしょう。観客としては、この場面が「異常なもの」だとはあまり感じられないのです。後輩役の役者さんも、よくありがちな「おネエ演技」を誇張することなく自然な振る舞い。口調がちょっとおネエっぽいかな?という加減で節度を持って演じているのです。あまりにも奇を衒わないため、「こういうことは現代の中国では、ありふれたことになっているのか?」と思ってしまうほど。
●YouTubeより~狙った恋の落とし方。 予告編
このように、物語設定を説明するために冒頭に「セクマイ」を登場させてインパクトをつけ、観客を一気に引き込む手法は日本映画『おくりびと』などでも使用されているわけですが、『おくりびと』の場合は役者の演技も演出もシナリオの台詞も全てが「大げさ」であるように僕には感じられ、観ていて不快になりました。しかしこの映画のこの場面では、まったく不快な感情が湧かなかったのです。セクマイを「奇異な存在だ」と扱っているか、いないかによって、こうも印象に差が出るのだということを感じました。
この場面にも象徴されているとおり、『狙った恋の落とし方。』はとにかく、全篇にわたって人間描写が丁寧で、創り手が観客の感受性を信用していることが伝わってくる、本当に素敵な映画でした。

すでに中国の都市部では、セクマイの存在は「奇を衒って描く」ことが時代遅れのナンセンスと捉えられる位に「当たり前のもの」になりつつあるのかもしれません。あ、そうそう。昨年の5月には天安門広場の前で中国のレズビアンたちが、2人でウェディングドレスを着て同性結婚式のパフォーマンスをする様子が、日本テレビ『バンキシャ!』で報じられたりもしました。
この映画から最もよく読み取れるのは、かなり自由で多様な生き方を享受している、中国の都市部に暮らす人々の「今」の空気でした。
男と女のロードムービーとしても最上級の出来。北海道の自然や人々の温かな暮らしを「すでに失われた心の故郷」と感じてしまうくらい、今の中国は高度経済成長一直線。その裏にある心の孤独が鋭く描き出されてもいる名作です。東京での上映は終わりましたが、機会がありましたらぜひ御覧になってみてください。→FC2 同性愛 Blog Ranking
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