チャールズ・ダンス「ラヴェンダーの咲く庭で」●MOVIEレビュー
大戦前夜の静けさの中で今年いちばん好きになった映画「ベルリン、僕らの革命」に出ていたダニエル・ブリュールが出演しているので、楽しみに見に行った。
オーソドックスな物語映画ながらも、老人と若者の出会いから別れまでの細かい心理描写が巧みであり、とても丁寧に作られている好感の持てる映画だった。
突然現われた若い男。華やぐ老女二人
1936年。イギリスの海辺の田舎町で、ひっそり暮らす老女二人が主人公。
嵐の翌朝。いつものように浜辺を見下ろすと男が打ち上げられていた。見るとなかなかいい男。二人は必死に看病し、言葉の違いも乗り越えながら次第に彼の魅力の虜になって行く。
彼を巡って老女二人が嫉妬の火花をバチバチと燃やすのだが、これが生々しくておもしろい。演じるのはジュディ・デンチとマギー・スミス。演技者として素晴らしい仕事ぶりだ。そして、そんな二人の心理をわかりながらも、純真さと無垢さを武器にして世話になり続ける若い男のしたたかなこと(笑)。
若さに翻弄される喜びと切なさとそれまで沈んだ日常を送っていた老女二人にとって、彼の出現はまさに夢のよう。浮き足立った心の動揺を隠すことは出来ない。次第に彼の面倒を見ることが日々の生きがいになって行く。
生活を彼の好みに合わせたり、彼のちょっとした言葉に翻弄されてナーバスになったり・・・。いくつになっても人には「性(さが)」がある。好きな者に気持ちが高ぶり動揺する感情は、いくら経験を積んでも抑えられないどうしようもないものなのだ。
この映画のいいところは、そういう「老人の性」について啓蒙的に一面的に賛美するのではなく「当たり前のフツーのこと」として描き出しているバランス感覚だ。
「性(さが)」がもたらす華やぎと、同時に芽生える嫉妬や苦悩。
一生懸命な人間というものは喜劇的で滑稽なもの。奔放に振る舞う若者とは対照的に、ただただ翻弄される老いた女たちの可愛さがいとおしい。
大人であろうとすることは子どもである。子どもは実は大人なのである。
しかし、華やいだ日常もいつかは終わりが来る。元気になればいずれ、彼は出て行くのだ。「終わりの予感」は観客を惹き付ける特効薬。どんな別れが来てしまうのか・・・。見たくないけど見てみたい。観客心理はこちょこちょとくすぐられながら惹き込まれて行く。
若い女が現われたっ!
ある日、若い男はひょんなことからバイオリンを弾きだし、実は相当な名手であることがわかる。村の集まりでも腕前を披露して一躍、有名人になった。
そこへ、若くて美人な放浪画家が現われ、彼の演奏に着目する。実は彼女は有名な音楽家の妹であり、彼を都会のオーケストラにスカウトしようと画策をはじめ、彼に接近してくる。
猛烈に接近してくる若い女の出現に嫉妬の炎メラメラの老女たち。
「あいつは悪魔よ。」「信用のおけない女だわ。」
二人がいくら悪態をつこうが惹かれあう若い二人を止める事は出来ない。この時ばかりは「老い」という現実に残酷なまでに向き合わされてしまうのだ。
「アメリカに行って自由になりたい」若さと美貌と才能で老女達を虜にするという、この役。俳優ダニエル・ブリュールとしてはまさにハマリ役。彼の俳優としての持ち味は「透明さ」「アクのなさ」にあるからだ。
ちなみに、この男がどんな過去の持ち主なのかについて、映画で具体的には描かれない。ポーランド人であること。アメリカに行きたがっているということ。この二つの情報が与えられるのみである。
時代は1936年。おそらくドイツの侵攻してきたポーランドから命からがら逃げ出したユダヤ系の人物なのだろう。新天地アメリカに希望を抱いて渡る途中、船が遭難してしまったらしい。
「アメリカに行って自由になりたい。」水平線を見ながら彼は言う。
それを聞いて老女は言い返す。「アメリカは欧州のおちこぼれのたまり場よ。」
そして時は過ぎてゆく。時代は暗くなってゆく。
この映画の舞台であるイギリスの片田舎では、段々とキナ臭くなりつつある世界情勢など何処吹く風の、ただただ牧歌的な日常が繰り広げられている。老人達はそれがどれほど幸福なことか、人生経験から知っている。
しかし、若者は旅立ってしまう。これから嵐が巻き起こるであろう大都会へ。
残されるのは、老いた老女二人を確実に輝かせた、あの夢のような日々の記憶のみである。
時は残酷に移ろい行く。そして人は老いて行く。記憶を咀嚼し、食べ続けながら。
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コメント
この記事へのコメント
これ、見に行きたかったんですよね。もう終ったもんだと思ってました。
マギー・スミスとジュディ・デンチの競演ですよね。日本風に言えば山田五十鈴と杉村春子みたいなもん(古!)。
主演のダニエルくんは「グッバイ、レーニン!」という作品でも好演してます。もう少し子供っぽかったかな。
マギー・スミスとジュディ・デンチの競演ですよね。日本風に言えば山田五十鈴と杉村春子みたいなもん(古!)。
主演のダニエルくんは「グッバイ、レーニン!」という作品でも好演してます。もう少し子供っぽかったかな。
謎のピアノマンが登場した時に、この映画との関連が言われましたね。
akaboshiさんがこの映画を観られて、嬉しいですね。
akaboshiさんがこの映画を観られて、嬉しいですね。
● cafenoir さん。
僕、映画の趣味に偏りがあるもので・・・(笑)
マギー・スミスとジュディ・デンチ。
このお二人の事は全然知らず、たぶんこの映画で初めて見たのではないかと思います。
山田五十鈴と杉村春子・・・それは強烈っ!そんなに有名な方なのですか。
ダニエル・ブリュール出演作を見るのはこれで2回目。
「グッバイ・レーニン」も外せませんね!内容的にも面白そうだし。
僕、映画の趣味に偏りがあるもので・・・(笑)
マギー・スミスとジュディ・デンチ。
このお二人の事は全然知らず、たぶんこの映画で初めて見たのではないかと思います。
山田五十鈴と杉村春子・・・それは強烈っ!そんなに有名な方なのですか。
ダニエル・ブリュール出演作を見るのはこれで2回目。
「グッバイ・レーニン」も外せませんね!内容的にも面白そうだし。
●seaさん。
公開当初はこの映画、まったく興味がなかったので
ピアノマンとの関連性が騒がれていたということも、当時の僕にはなぜか
「完全スルー」な情報でした・・・(笑)
公開当初はこの映画、まったく興味がなかったので
ピアノマンとの関連性が騒がれていたということも、当時の僕にはなぜか
「完全スルー」な情報でした・・・(笑)
この映画、かなり気になってたんですよ〜。
おもしろそうですね。
やっぱり人間は死ぬまで色気がなくちゃいけませんよね〜。
1月はじめに東京出張が入ったので、それまで上映してるかなと
今調べてみたら、どうやら16日で終わったんですね。。。(^^;
和歌山は半年遅れぐらいで上映するかもしれないので
(『メゾン・ド・ヒミコ』、今月17日から2週間上映してるんです。。。笑)
期待して待っておこう。
おもしろそうですね。
やっぱり人間は死ぬまで色気がなくちゃいけませんよね〜。
1月はじめに東京出張が入ったので、それまで上映してるかなと
今調べてみたら、どうやら16日で終わったんですね。。。(^^;
和歌山は半年遅れぐらいで上映するかもしれないので
(『メゾン・ド・ヒミコ』、今月17日から2週間上映してるんです。。。笑)
期待して待っておこう。
マギーもジュディもDameの称号を持つ英国の名女優です。
akaboshiさんのお目当ては、ダニエルくんでしょうけど、ね!
akaboshiさんのお目当ては、ダニエルくんでしょうけど、ね!
私もダニエル・ブリュール好き。
「グッバイ!レーニン」かなりお勧めですよ、レンタルしてみて!
どことなく堂本剛に似てませんか…?
「グッパイ〜」で大いに期待して「ベルリン・僕らの革命」も行きました。
ラストでやられましたね。あのラストの為に全てがあったような気がする。
「ラヴェンダーの咲く庭で」レンタル出たら早速借りてみます。
「グッバイ!レーニン」かなりお勧めですよ、レンタルしてみて!
どことなく堂本剛に似てませんか…?
「グッパイ〜」で大いに期待して「ベルリン・僕らの革命」も行きました。
ラストでやられましたね。あのラストの為に全てがあったような気がする。
「ラヴェンダーの咲く庭で」レンタル出たら早速借りてみます。
● kajukajuさん。
そうなんです。東京での2番館上映は終わってしまったようですね。
そのうちDVDが発売されるのではないでしょうか。
「メゾン・ド・ヒミコ」は、東京でもまだ2番館で上映が続いてますよ。
そうなんです。東京での2番館上映は終わってしまったようですね。
そのうちDVDが発売されるのではないでしょうか。
「メゾン・ド・ヒミコ」は、東京でもまだ2番館で上映が続いてますよ。
●cafenoirさん。
イギリスでは「称号」が与えられるのですか。ほほぅ。
この2人の演技からは、知性と感性が滲み出ていて素敵でした。
あそこまで大っぴらに「女」の色んな感情を(美しさも醜さも)表現できるなんて
スゴイと思います。
ダニエルくんは・・・セクシー(爆)。
イギリスでは「称号」が与えられるのですか。ほほぅ。
この2人の演技からは、知性と感性が滲み出ていて素敵でした。
あそこまで大っぴらに「女」の色んな感情を(美しさも醜さも)表現できるなんて
スゴイと思います。
ダニエルくんは・・・セクシー(爆)。
● sichihukuさん。
よ〜し「グッバイ!レーニン」今年中に観ますっ!
堂本剛さんに似てますかねぇ。・・・ちょっと拗ねてる感じとか、
なんとなく闇を抱えてそうなところが確かに似てるかも。
「ベルリン、僕らの革命」本当にいいですよね。ラストのメッセージが効いてるし。
もう、あまりにも好きすぎて、ブログにレビューが書けません(笑)。
すごく感銘を受けてしまうと、文章化するのにすごくエネルギーが要るから
なかなか書けなくなってしまうようで・・・。
そういう映画、実はたくさんあったりして(笑)。
よ〜し「グッバイ!レーニン」今年中に観ますっ!
堂本剛さんに似てますかねぇ。・・・ちょっと拗ねてる感じとか、
なんとなく闇を抱えてそうなところが確かに似てるかも。
「ベルリン、僕らの革命」本当にいいですよね。ラストのメッセージが効いてるし。
もう、あまりにも好きすぎて、ブログにレビューが書けません(笑)。
すごく感銘を受けてしまうと、文章化するのにすごくエネルギーが要るから
なかなか書けなくなってしまうようで・・・。
そういう映画、実はたくさんあったりして(笑)。
ちなみに、我等がショーン・コネリーは、
「サー・ショーン・コネリー」ですよ。
授与式にはスカートみたいなの着て女王の前に登場。スコットランドの人ですから。
「サー・ショーン・コネリー」ですよ。
授与式にはスカートみたいなの着て女王の前に登場。スコットランドの人ですから。
ブログを読んでいたら、とっても観てみたくなりました。
「ベルリン、僕らの革命」も観たこと無いし・・・。
レンタルで探してこようっ!!(でも探すの苦手なんです・・・。見つかるか心配。)
「ベルリン、僕らの革命」も観たこと無いし・・・。
レンタルで探してこようっ!!(でも探すの苦手なんです・・・。見つかるか心配。)
●cafenoirさん。
えっ、ショーン・コネリーってそうなんですか。
・・・知りませんでした、どうもです(笑)。
えっ、ショーン・コネリーってそうなんですか。
・・・知りませんでした、どうもです(笑)。
●yoriさん。
まだ見つからないと思いますよ〜。
サイトを見てみたら、この映画のDVD発売とレンタルは
来年の1月27日からみたいですよ。
まだ見つからないと思いますよ〜。
サイトを見てみたら、この映画のDVD発売とレンタルは
来年の1月27日からみたいですよ。
おっと!!
フライングするところでした(汗)
忘れないように手帳に書いておきます! 調べていただき、ありがとうございます!!
フライングするところでした(汗)
忘れないように手帳に書いておきます! 調べていただき、ありがとうございます!!
遅まきながらDVDで鑑賞致しましたので、
トラックバックさせてもらいました。
トラックバックさせてもらいました。
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ラヴェンダーの咲く庭で(2004)
LADIES IN LAVENDER ■監督 ◇ チャールズ・ダンス ■出演 ◇ ジュディ・デンチ ◇ マギー・スミス ◇ ダニエル・ブリュール ◇ ナターシャ・マケルホーン ◇ ミリアム・マーゴリーズ英国コーンウォール地方、風光明媚な海岸に立つ屋敷に住む老姉妹ジャネットとアーシュラ。
