木下惠介を辿る旅001●「日本メジャー映画初のゲイ・フィルム」と言われる木下恵介監督『惜春鳥』、神保町シアターで上映

その作品とは、木下恵介監督の『惜春鳥』。神保町シアターで開催中の『オールスター映画 夢の祭典』の中で上映されるという情報をキャッチしました。
木下監督と言えば1950年代の日本映画全盛期に、小津安二郎や黒沢明と並び称されるほどの大監督として松竹大船に君臨し、『二十四の瞳』や『日本の悲劇』『喜びも悲しみも幾歳月』『楢山節考』などの大ヒット作品を量産した人であり、日本初のカラー映画『カルメン故郷に帰る』の監督としても知られる方なのですが、生涯を独身で通され、「女嫌いで男好きだったらしい」というエピソードが、数々の俳優や関係者の口から陰に陽に語られ続けている人でもあります。
そんな木下監督。「やっぱりゲイ・フィルムを創っていたんですね!」と生きていたら真意を訊いてみたくなるような作品が、1959年に制作された『惜春鳥』であるようで、石原郁子著『異才の人 木下恵介―弱い男たちの美しさを中心に』
実は僕、20代の前半に木下恵介監督作品は特集上映で全作品制覇しているので、この作品も観ているはずなのですが・・・当時はまだ自分を「ゲイ」だと認識していなかったからでしょうか、まったくそのような印象は持ちませんでした。というより、きらびやかな名作の影に隠れてしまい、あまり印象に残らなかった作品です。しかし上記の本に出会ってからは見返してみたくて堪らなかったので、この上映機会は本当に楽しみです。時代の制約の中で監督が「闘っていたもの」の姿も浮かび上がるかもしれません。日本映画史の本を見る限り、この時代にゲイ・フィルムとして評価されている作品は、一つもない。(中略)だが『惜春鳥』は違う。木下はこの映画で一種捨身のカムアウトとすら思えるほどに、はっきりとゲイの青年の心情を浮き彫りにする。邦画メジャーの中で、初めてゲイの青年が<可視>のものとなった、と言ってもいい。
『惜春鳥』 S34('59) 松竹大船
上映日時:
3月1日(月)17:00、2日(火)18:45、3日(水)12:00、4日(木)14:00、5日(金)16:30
監督:木下惠介(1時間42分)
脚本:木下惠介、撮影:楠田浩之、音楽:木下忠司、美術:梅田千代夫
出演:有馬稲子、佐田啓二、川津祐介、津川雅彦、小坂一也、石浜朗、中村豊三、十朱幸代、笠智衆
・・・会津若松を舞台にした松竹若手オールスターの青春群像劇を、佐田と有馬の悲恋を交えて描く木下惠介の秀作。青春のはかなさを見事に謳い上げる演出手腕に酔う。(神保町シアター公式ページより)

★木下惠介 DVD-BOX 第4集(『惜春鳥』収録)
木下恵介監督は、同時代の黒沢明が「マッチョな男性像」や「男たちの社会」を描き出すのを得意としたのと対照的に、「女性の強さや生命力」あるいは「社会の一線から脱落している弱い男たち」を描くことを得意とした人。日本映画史の中ではよく、「男性映画の黒沢」、「女性映画の木下」と対照的に語られたりします。
そのせいか、国際的な評価という点からすると、作品においても監督としての対外的パフォーマンスにおいても「男性原理」を前面に押し出して果敢に攻めた黒沢明は高く評価され、木下恵介は同時代においては「女性的」で「感傷的」だという言い方で、マイナスの評価を男性映画評論家たちから下されるケースが多かったようです。
現在における「歴史上の名声」にもそのことが影響しており、木下監督について記された本は、大監督だった割には全然出版されていませんし、驚くことに全作品のDVD化もされていません。
泣く男や弱い男などが頻繁に登場し、高度経済成長の時代に「強くなければならないと思わされている男たち」の視点からすると見たくないものを描き出して突き付けたりする木下映画。つまり、真の意味で時代に反逆していたのかもしれません。そして、そうした映画を創れたのはやはり、監督が「単純な(ストレートな)男性ではなかった」ということも影響しているのではないかということが、公式の場でも言われ始めています。
石原郁子さんは『異才の人 木下恵介―弱い男たちの美しさを中心に』
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コメント
この記事へのコメント
惜春鳥
私も前に1,2回見ました。美少年が大勢出ていると思いましたが、ゲイの印象は残っていないんですよね。ご覧になったら、是非、誰と誰がそういう関係に見なされたのかを教えて下さい。
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