フツーに生きてるGAYの日常

やわらかくありたいなぁ。

2017-11
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田中千世子「みやび 三島由紀夫」●MOVIEレビュー

「三島さんてね、仮面的な人だよね」

昨年44歳で亡くなった狂言師・野村万之丞氏の言葉。この映画の中でもっとも印象的なものだった。
彼は三島由紀夫と同じ学習院の出身。しかも三島氏の長女と同級生だったという。
かつての学び舎を訪れ、生き生きと語っていた彼は撮影の三ヵ月後に急死する。
彼は、こうも言っている。

「私は仮面が大好きなんですね。仮面ほど正直なものはなく、人間の顔ほど嘘つきなものはないと思っています。」

仮面とは人工物。
すなわち「フィクション」のこと。
仮面そのものは表情を変えることはない。だからこそ見る者が、いかようにもその内面を想像することが出来る。そして、けっして裏切ることはない。

一方、人間の顔は時に演技をする。なぜなら人というものは基本的に、相手や環境によってコロコロと表情を変える演劇的な存在だからだ。刻々と変わり行く表情から、その人物の内面が読み取れると思ったら大間違い。それは本人が意識的にせよ無意識的にせよ演じてしまっている「仮面」かもしれないからだ。・・・なんという逆説だろう。

人が生きるということは、本質的に「嘘をつくこと(演技をすること)」である。それを欺瞞と言ってしまうのなら、そうなのかもしれない。
一方、仮面そのものは「生きてはいない」。死んでいる。だからこそ「嘘をつかない」のである。
ああ・・・。なんだか妙な観念の世界にハマッて行きそうで、身震いがしてきてしまうではないかっ!。でもこれは紛れもなく、三島由紀夫を考える上で本質的な問題なのである。

三島由紀夫ファンが、好きな「文化人」に頼み、三島を語らせた映画

「キネマ旬報」などでおなじみの映画批評家・田中千世子さんが監督。
なんでも彼女は高校時代からの熱心な三島ファンで、三島由紀夫が自決した1970年11月は御茶の水女子大学の3年生。
ちょうどその数週間前に文化祭で「近代能楽集」の「班女」を演出したばかりだったという。しかも上演許可を求める際に、三島由紀夫本人から返事があり、とても印象的な言葉を投げかけられてしまう。

「芸術家と芸術作品の一致の夢がありました。」

・・・手紙に書いてあったこの言葉。自決の直前に、なんとも意味深ではないかっ!。
こんな言葉を本人から貰ったのなら・・・彼女がこういう映画を創りたくなるのはあたりまえ(笑)。彼女の人生にとっては創る必然性があったのだ。
仕事を通じてのいろんな人脈を駆使し、彼女が奔走した情熱でこの映画は満ちている。正直、映像表現としてはもう少し煮詰める必要がありそうだが、その「止むに止まれぬ表現欲求」は伝わってきた。
そして、インタビュー出演者の人選が変わっている。いわゆる「三島由紀夫を語らせるならこの人」という常連さんは出てこない。あくまでも、彼女のアンテナに引っかかった彼女の好みの人たちに限定されているのだ。

監督自身が見たくなる

結果的に、とてもふわふわと浮遊感のある映画になった。肝心の三島由紀夫が「見えそうで見えない」もどかしさが全編を支配する。
それは、死後35年という時間の刻印であるとも言えるのだが、出演者の大半が三島由紀夫から「距離をとっている」「遠い」タイプの人たちであるため、人間としての彼がなかなか浮かび上がって来ない。

現代における三島由紀夫の受容のされ方、影響の伝わり方を掬い取りたかったのかもしれない。その心意気は素晴らしいのだが・・・ある意味、想像どおりのタイプの人々が登場し、想像どおりの言葉が引き出されたという印象に留まってしまったのが残念。

この映画の出演者で、三島由紀夫にいちばん思い入れが強いのは、実は監督本人なのではなかろうか。だったら、もう少し監督自身が映画の構成の中に絡んできても良かったのではなかろうか。

確かに、インタビューの人選をし、対話をし、編集するという行為自体に監督の視点は込められてはいる。でもそれは、こうしたインタビュー映画では当たり前のことである。
問題はその先にある。
彼らと話した結果、監督がなにを描こうとするのか。そこで監督の意志や世界観、哲学が問われてくるのだ。上映されている作品自体から、その肝心な部分が見えにくくなっていることは、損である。

観客としては、この映画作りで監督が何を発見し、何に迷い、何に衝撃を得たのか、そのプロセスを知りたくなるのだ。しかし、そういう現象が撮影中に起こったようには感じられない。映画を撮る前にすでに全ては予定されていて、その通りに作ってしまったという感じが漂ってしまっているのだ。これは本人にとっても不本意な事ではないだろうか。残念なことである。

映像表現の難しさ

ドキュメンタリーの醍醐味は「発見」にある。制作者が「発見」し、映画作りを通して「自己変革」する姿を通して、観客も何かを得る。観客は「発見したい」から映画館に足を運ぶのである。

この映画に出てくる言葉は、確かに面白い。しかし、文化人と三島について語り合った言葉を集めるのならば、出版を前提とした「聞き書き」で充分だったのではないだろうか。
能や演劇、日本舞踊、ヨットでの航海など・・・出演者の表現活動を紹介するために苦心して撮影した映像も散りばめられてはいる。しかしそれらはあくまでも登場人物たちの補足説明としての機能しか果たしていない。もっと踏み込んだ部分が欲しい。お行儀の良い語らいだけではなく、なぜ三島に彼らがこだわっているのか・・・その裏に隠された「狂気」の片鱗が見たいのである。そのためには、監督自らの内に潜む「狂気」の開示が、もっと必要だったのではなかろうか。監督が開示すれば、もっと出演者たちも開示できたはず。人間関係というのはそういうものではないだろうか。

こうしたタイプの作品を、どう「映像表現」として定着させ得るのか。
非常に難しい課題ではあるが、図らずもその難しさを知らしめてくれる作品ではあった。


★僕の印象に残った出演者たちの言葉を、ほんの一部だけ御紹介

●平野啓一郎(小説家)
「『金閣寺』っていうのは、一般的には美について語っている小説という風に読まれますが、美というのはそこではひとつの媒介にすぎなくて、実は三島の言う『絶対者』について語っていると思うんですよね」

●柳幸典(美術家)
「芸術は解釈、その後の解釈・・・。芸術家はいずれ死者でしかなくなる。解釈と芸術家は逆に乖離していくんじゃないかと僕は思います」

●ラウラ・テスタヴェルデ(イタリア人・日本文学研究者)
「1970年11月25日、(中略)強い衝撃を受けました。世界的な作家、三島由紀夫が伝統にのっとり切腹をした。東京にある自衛隊駐屯地で、日本がアメリカの支配的影響下にある状態から自らを解放することを呼びかけて。」

●坂手洋二(劇作家・劇団燐光群主宰)
「楯の会自体は演劇的な観点では見られないですね。自意識が強すぎて・・・。芝居にかぎらないんですが、ものをつくるということは、自分の自意識との戦いだと思うんですが、楯の会は自分を見ている人が楯の会のチームの中にもいて、それを周りも見ている、と。あるいは別の時代からも見られるだろう、と。何段階もの自己演出があると思うんですね。」

いや~、しかし三島由紀夫はやはり巨大な怪人だ。そして壮大なる「知の塊」だ。
その全てを知り尽くすことなど到底不可能。逆に言えば、そうしようとすると足を掬われるのではないだろうか。ハナから「かなうわけがない」のだから。
三島を基に新たな表現を開拓したいのならば、研究者的な視点は捨てるべきである。
怖れることはない。すでに三島は「死者」という本物の仮面になってしまったのだから。
裏切ることはないのだから。

「みやび 三島由紀夫」
監督:田中千世子/2005年/74分
プロデューサー:鈴木隆一・すずきじゅんいち

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コメント

この記事へのコメント

どうもです。akaboshiさんのおかげで、やっと、三島作品に触れ始めました。
自分にとって三島由紀夫とは「公民」の教科書に記載されている「憲法違反」の判例つながりですね・・・。
作風はずーと気になっており、文庫を買ったりしていましたが、akaboshiさんのblogを通じて読む決心をし、夏休み旅行先で「仮面の告白」とかを読みふけっておりました。
全集購入しそうです。
いろいろ、三島文学教えてください!

●LARKさん。
公民の教科書には、「憲法違反」のどういう判例で三島氏が記述されているのですか?
ちょっと検索してみたら、「私書」の著作権問題、「宴のあと」事件、
自殺の際の「自衛隊違憲論」など、いくつか彼にまつわる出来事が出てきましたが。
全集買っちゃうんですか?
↑この映画の中にも、全集がズラーっと並べられたカットが出てくるのですが
かなりたくさんあるようでビビリました(笑)。
僕もまだまだ、読んだ数としては微々たる物なので
一緒にこれから楽しんで行きましょう!

すみません。
「宴のあと」です。
憲法違反のほかの事例は「百里基地」ともうひとつ基地関係かな・・・。
最近は、公職選挙法と靖国がメインでしたが・・・。
中学生の頃はプライバシーの侵害というので、妙に好奇心が引かれたのがいまだに・・・。
全集はboshiさんみたいにネットで調査していないですが、
とりあえず、ちくまかどこからかでた文庫系からゆっくり読んでいこうと思います。
こちらこそ、三島友の会(?)よろしくです。

●LARKさん。
ネットで「三島由紀夫 憲法違反」で検索したら色々出てきて面白かったです。
いろいろと物議を醸す事を起こしたようですね。(サスガです・・・)
最近、小説「音楽」を読み終えたばかりなので、
しばらくは「音楽」を中心に論じてみようと思っています。
時間がありましたら、ぜひお読みください。
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