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2023-06
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増村保造「音楽」●MOVIEレビュー(ATG)

☆この映画のレビューには、作品の性格上、露骨な性描写が含まれます。
ご承知の上でお読みください。
三島由紀夫原作。
不感症の女性が求める、自分だけのエクスタシー


「音楽が聴こえない」
そう訴えて精神分析医に治療を頼み込む女性。
この場合の「音楽」とは「性的エクスタシー」を意味するらしい。

三島由紀夫の原作。
彼の死から2年後の1972年に、増村保造が監督。
この人は「女性のエロスとパトス」を描かせたら右に出る者はいないと言われる情念派。もう・・・その組み合わせという事実だけでお腹いっぱい(笑)。

この濃厚すぎる世界はナニ?
この、むせ返るような暑苦しさはナニ?
・・・性的不感症に苦しむ女性が、自分にとってのエロスを求めて狂ったように男をむさぼり、追求する姿。その過剰なまでのエネルギーと情熱は、ほとんど偏執狂。
芝居もコッテリ。演出もコッテリ。・・・ほんと、いろんな意味で圧倒されますこの映画。

女体をハサミに譬える三島的観念の世界

オープニングのタイトルカットがすごい、
暗闇の中を、巨大なハサミが開いて閉じて・・・女体にオーバーラップして行く。すなわち、女性がベッドで足を開いたり閉じたりする姿が、ハサミに譬えられているのである。
しかもその女は全裸のままで横たわり、あろうことかオナニーをしているかのように身悶えしている。自分の身体を自分でまさぐり、乳房を揉みしだき、自分でエクスタシーを感じているのだ。その禁断の姿はすごく幸せそう。そして、とっても自分を愛しているかのよう。(なんて三島由紀夫的なオープニングっ!なんて増村保造的皮肉っ!笑)

女体の股に刺し込まれるものといえば、もちろん男の「アレ」。ということは、この女性は「アレ」を切ってしまおうとでも言うのだろうか?。この描写は、これからはじまる異常性愛の世界を予感させて、実に刺激的かつエロティックである。

不能の男が好き

大好きな恋人とセックスをしていても、なにも感じない。彼はすごく逞しく精悍この上ない男っぽい男だというのに。
ショックで旅に出た彼女は、旅先で彼とは正反対のタイプの男と一夜を共にする。その男は自殺志願者。性的不能に悩んで自殺しようとしていたのだ。
生気がなく細身で男らしさの欠片もない彼に、なぜか主人公は興奮する。そして二人で最高の一夜を過ごす。彼女のおかげで性的不能が治った男は感激して主人公に求愛するが、主人公は途端に冷めてしまう。彼女は「不能」である彼が好きだったのだ。男として蘇った彼には用がない。

死んだ男が好き

あげくの果てに彼女は、入院中で死期の迫った病人にエロスを感じてしまう。しかもそれは、かつて自分をレイプした男。かいがいしく付きっきりで介護しながら、彼の身体から徐々に発せられる「死の匂い」に魅せられて行く。
やがて彼は死ぬ。彼女は悲しみながらも、死んだ彼の上にまたがり全身で愛撫をしてしまう。(この場面、はっきり言って引きました・・・笑)

近親相姦という禁忌

精神分析医の力を借りながら、自分の異常な性癖の原因を探る主人公が辿り付いたのは、最大のタブーである「近親相姦」。彼女は幼い頃から兄が好きだった。兄に指で弄ばれたのが彼女の初体験なのである。いつか兄の愛情を注入してもらうために、子宮を空けておきたい。だから男らしい男とのセックスでは拒否反応が起きてしまうのだと精神分析医は分析する。

・・・マジかよ。
こう心で突っ込む間も与えられず次から次へと強引なドラマ展開に翻弄され、ついに観客は兄妹が近親相姦に達するエクスタシーまでをも目撃させられてしまう・・・。

このような三島的妄想の世界を大真面目に映像化し、フロイト的精神分析と絡めながら、女の動物性を強調して欲望というものの壮絶さを可視化して行くだなんて・・・いろんな意味でこの映画、突き抜けちゃってます(笑)。そして、「そういうのもアリかも」といつの間にか思わされてしまう力技には脱帽。

三島由紀夫の粘着感

今、このブログで三島由紀夫のことを同性愛者としての見方から読み直すべく記事を連載している僕としては、かなり楽しむことができた。途中から、主人公の女を三島由紀夫に置き換えてみたら、すんなりとこの妄想狂的な世界が理解できるような気がしたからである。
この辺については、連載であらためてじっくりと考えてみようと思う。

原作の「音楽」は、当時かなりヒットしたいわゆる「通俗小説」と呼ばれるタイプの作品である。(文庫本が4つの出版社から出版されているほどの人気)。
しかし三島由紀夫の代表作・名作として語られることは「ほぼ無い」という、微妙な位置付けに甘んじている作品でもある。僕としては、なかなかどうして彼の精神構造を読み解く上ではとても面白い作品ではないかと感じた。小説も読んでみようと思う。

それにしても、三島由紀夫が関わるとどうしてこんなにも「濃い」んだろう。
ギトギトで油ぎっていて、黒光りしているようなおぞましい世界・・・。
覗いてみたい人はぜひ、何が起きても受け入れられる精神状態の時に、見てみてください。

「音楽」
製作:行動社・ATG 配給:ATG
1972.11.11公開 104分 カラー
監督: 増村保造
作: 三島由紀夫
脚本: 増村保造
企画: 葛井欣士郎 / 藤井浩明
撮影: 小林節雄
音楽: 林光
美術: 間野重雄
編集: 中静達治
出演:  黒沢のり子、細川俊之、高橋長英、森次浩司、三谷昇、松川勉、森秋子、藤田みどり

三島由紀夫「音楽」(新潮文庫)

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三島由紀夫とつきあってみる。006●小説「音楽」の魔①

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コメント

この記事へのコメント

MYPのG2です。ブログ「杉村大蔵VS片山さつき」にコメントを書いてくれて、ありがとう。三島の「音楽」はねぇ、一度読んだけど、さすがに映画は観ていません。怖くて(笑)
三島は本当に気になる作家ですよね。私は最近、初めて「金閣寺」を読んで、その天才的筆力に圧倒されました。
三島の性を覗くことは、自分の深淵を覗くこと。タブーに斬り込む覚悟が必要です。

●G2さん。
僕はこれから小説を読もうと思います。これ、すごく面白いですよ、きっと。
この映画の増村保造監督は、三島由紀夫主演「からっ風野郎」を作ったりと、
かなり三島氏と親交があったようです。
彼のあのショッキングな死の2年後に、もうこの作品を公開してしまうとは
なかなかエネルギッシュです。
ちょっと異様な空気感に覆われていて、既成のモラルから逸脱した世界ですが
人生経験として(笑)、見てみると刺激を受けることは間違いありません。
「タブーに斬り込む覚悟」
・・・そうですね。僕だから感じる三島氏の持つ深淵の魔力を
探って行こうと思います。

マッチョなシュワちゃんやボブサップが好き、でも、ジャニーズの18歳から、22歳ぐらいまでが好きなんて、自分の支離滅裂?な趣味に困惑してるし、かといって実際の男にエロスを感じて、悶えることもないに戸惑う。これをみて、自分の性癖がほかのところにあるのかもって思う。

● kounennkiさん。
「性癖の追求」って、三島由紀夫を考える上で外せない問題ですよね。
そして、誰にとっても実は、「根幹」に関わる大切なことかもしれない。
感性とか性格とか好みとか、そういうものを成り立たせているのは
「性癖」の影響がすごく大きいのではないかと思います。

卵が先なのか鶏が先なのか? 性癖があったからなのか、トラウマ、環境があったからなのか? 分析的でもあり、総括的でもあり、視点を次々にかえ、違う世界を見てみたい。そのような異なる立場にたった時、赤星さんの意見の違いが知りたいと思う。 つまり、自分の性癖を認めたとき、性癖に否定的なストーリーを組み立てられるか? それと埋もれずに対峙する視点は他にあるのか? なんてことを考えてました。すいません。(笑)

● kounennkiさん。
そうですね。どちらが根本原因かということを考えるのは
無理なことなのかもしれません。
人間ってそんなに単純なものではないですからね。
インチキな権威主義の学者みたいに、論理で安易に結論を出さないように
気をつけたいものです。
この映画は、その点、ちょっと「論理」の世界にハマってしまっているのかも
しれないとも思います。
三島由紀夫氏自身が、どちらかと言うと論理で詰めてしまいたがるタイプだと
僕は思っているので、良くも悪くも彼らしい物語展開だと思いました。
この原作を、女性の映画監督が「批判的に」読み直して映画化してみたら
全然違うものになって、さらに面白いかもしれません。
・・・というより、この映画は現在の若い女性の感覚で見てみたら
ムズムズして気持ち悪くなって抗議したくなるかもしれませんよ。
「70年代的女性観の塊」みたいな映画ですから、この映画。

そういえば・・・
「音楽」あったような・・・
改めて読もうかと書棚を探す。
背伸びして読んだ本
追われるように、逃げるように
途中で放り投げてしまった本たちを眺めていると
若い時代の自分と対峙しているようで恥ずかしい。
数箇所探したが見つからなかった。
思いがけない本発見!
コクトー「怖るべきこどもたち」東郷青児譯
何点かの東郷のカットがエロチックである。
えぇっ!発行昭和30年って・・・
タイムスリップしてきたんですか?
どうりで、字も難解だし旧仮名づかい。
読める?自信ないかも・・・

これはとても観てみたいです。こんな映画あったんですねえ。三島は女性の性を描くのに近親相姦持って来ましたか・・・ ビデオやで借りたんでしょうか。わりと見つけやすいですか。

● mitiruさん。
僕、三島由紀夫の「音楽」持ってたので少しずつ読んでます。
精神分析医が書いている「手記」の体裁で書かれているのですが
すごく読みやすいし、言葉が赤裸々で面白いですよ。
読み終わったら「三島由紀夫とつきあってみる」に書こうと思ってます。
コクトーの「恐るべき子どもたち」はコクトー展に行った後、文庫で読みました。
短編なのですぐに読めますが、翻訳の言葉遣いがわかりにくくてイライラしました(笑)。
あんな訳し方じゃ、作品の世界観がうまく伝わってないのではないかと思います。
翻訳調の「かしこまった」言葉じゃなくて、どうせ訳すなら
ちゃんと日本語の「作品」として文章化してほしいですよね。

●flowfreeさん。
この映画は、ちょうど池袋の新文芸座で「ATG映画特集」をやっていたので
「曽根崎心中」と2本立てで見ました。
アマゾンで調べましたがDVD発売はしていないようです。
レンタルはしているのかもしれませんが。
なかなか見ることが出来ない作品だったようです・・・。

観てみたいですね、これ。 レンタル屋探してみます。
今思い出したのですが、数年前 “キスト”(kissed) というネクロフィリアの女性を扱ったカナダ映画を観た事があります。 幼い頃から小動物の死体と親しみ、死体好きが嵩じてエンバーマーとして葬儀会社に就職、そして男性の死体が運び込まれる度に彼等と交わる様子が、少女の、神聖な空気を纏うファンタジーとして描かれています。
ご参考までに。

●渦さん。
レンタル屋に、もしも無かったらスミマセン。
その映画の場合は「死体好き」が、本物のフェチなんですね。
この映画や三島由紀夫の原作の方では、
主人公の女性の「精神分析」のための一材料として描かれているので
彼女の本当のフェチではないようです。
しかし「死体」とか「性的不能」の者に対して愛着を持つということは
征服欲の裏返しでもあり、とっても三島由紀夫的だなぁと思いました。
そのうち三島由紀夫「音楽」について、連載をはじめますので
興味があったらお付き合いください。

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