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フツーに生きてるGAYの日常

やわらかくありたいなぁ。

2020-07
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羽田澄子「歌舞伎役者 片岡仁佐衛門 孫右衛門の巻」●MOVIEレビュー

壮絶な生き様

文化映画と呼ばれる映画がある。
商業映画とは一線を画し、映像の記録性に着目し、文化を映画として保存する目的で作られる映画。
これは、ある一人の歌舞伎役者の晩年の一断面を切り取った文化映画である。歌舞伎ファン、十三代片岡仁佐衛門ファンにとっては、おそらく涙モノの映像なのではなかろうか。

この映画は6部構成で、なんと11時間に及ぶ大長編。
1992年に岩波ホールで公開されたものを、現在ポレポレ東中野で再上映している。
僕はそのうちの一部しか見ていないが、とても印象的な場面があったので紹介したい。

老いと向き合う日々、それを支える人々

第五部「孫右衛門の巻」では、老境にさしかかった歌舞伎役者が、死の直前まで芸能活動を全うする姿を、稽古場、インタビュー、舞台映像などの記録によって描き出す。稽古は歌舞伎座のロビーでの模様を撮影したようだ。

稽古場に入る老いた役者の姿が痛々しい。タクシーから下りても、杖をついてやっとゆっくり歩ける程度。付き人がいないと歩道を横切ることすらままならない。この時すでに84歳。私生活ではかなり不自由な状態であることが窺える。
老齢に達した役者が芸能活動を続けるには周囲の人間の献身がなければ成り立たない。逆に言えば、周囲の人間から慕われるような人格でなければ舞台に立ち続けるのは不可能だということでもある。

それでも、いったん稽古場に入れば老人の顔は生き生きと輝きを放ち、役者・片岡仁佐衛門の顔になる。自分の頭と肉体で記憶している芸の所作や作品に込められた精神を、若手に少しでも伝授しようと身体を使って示している先輩役者の輝いた目。

そこで交わされている言葉は理論や理屈ではない。音楽的な感覚や、美学的な「見せ方」を伝授する。戯曲の解釈や人物の心理描写を論理によって組み立てようとする近代劇の稽古場とは一線を画した、歌舞伎の稽古場ならではの光景である。

生きるがために、花道を行く

いよいよ舞台稽古。歌舞伎座の花道の後ろから、片岡仁佐衛門が杖をつきながらゆっくりと舞台へ向かう姿が長廻しで記録されている。演技をしながら足下を見ることすら困難なようで、狭い花道から落ちてしまうのではないかと思われる位に危なっかしい。どこからが舞台なのか、周りから言葉で言ってもらえないとわからないほどである。

しかし舞台本番の映像では、よぼよぼの老人を誇張した演技をしながら、見事に花道を歩き通す。そして舞台では堂々と安定感のある演技を繰り広げる。
役の人物と、役者本人の「虚と実」が混ざり合い、見る者に理屈を超えた感銘を与える名場面である。

舞台というのは、役者が役者として「生きられる」場所。そこへ向かう花道は、現実から舞台という虚構への橋渡し。
役者は生きるために花道を進むのである。その象徴的な意味をこれほど感じさせてくれる場面を、僕は今まで見たことがない。客席からは、多くのすすり泣きが漏れていた。

しかし役者という生き物は、どうしてここまでして自分を追い込み、虚構の人物を演じようとするのだろう。そして、なぜに人はその情熱を見て、感動するものなのだろう。
スクリーンの中の、今は亡き老役者が懸命に輝こうとする生命力。
その圧倒的な強さには、ただ圧倒されるばかりだった。


「歌舞伎役者 片岡仁佐衛門 孫右衛門の巻」
制作:工藤充/演出:羽田澄子
・・・平成元年10月、歌舞伎座で『恋飛脚大和往来』が上映された時、仁左衛門が「封印切(ふういんきり)」と「新口村(にのくちむら)」の稽古を見る姿と、孫右衛門を演じる姿の記録。
「歌舞伎役者 片岡仁佐衛門」全6部作・急遽追加上映決定。ポレポレ東中野
①若鮎の巻(1時間42分)・・・10/8(土)9:40・10/12(水)9:40
②人と芸の巻㊤(1時間34分)・・・10/8(土)11:30・10/12(水)11:30
③人と芸の巻㊥(1時間41分)・・・10/9(日)9:40
④人と芸の巻㊦(1時間45分)・・・10/9(日)11:30・10/13(木)9:40
⑤孫右衛門の巻(1時間26分)・・・10/10(月)9:40・10/13(木)11:30
⑥登仙の巻(2時間38分)・・・10/1(土)~7(金)15:30・17:30
・・・追加上映→10/11(火)・14(金)9:40・11:40

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コメント

この記事へのコメント

akabosshi07サン、いつかギリシャの古代劇場で、ギリシャ古典を見て欲しいなぁ。ギリシャ古典も良いですよ。特にオイディプスとかメディアなんか素敵!なんていうのかなぁ、ギリシャ古代劇には西洋演劇の核のようなものがあるのです。
昔、ギリシャの古代劇場で平幹二郎さんがメディアというヒロインを演じたのです。当然ですね。はっきり言ってギリシャの女優は声が太いですよ。日本女優では負けます。あの恐ろしさ、図太さ、深みのある声はちょっと・・・。やっぱり平さんかなぁと思いました。

● lemonodasosさん。
ギリシャの野外劇、見てみたいですねぇ。
野外の大劇場で演じるには、役者の声が大きく図太いのは
必須条件だったのでしょうね。
日本も河原で演じていた時代や歌舞伎を大劇場で演じていた時代は
みんな声も鍛えられたのでしょうが、
今は環境の整ったホールや小劇場で演じるのが主になってますからね。
その良し悪しは別にして、声の野太さがあまり重要視されなくなってきていることは
確かだと思います。それによって表現方法も変わってきていますし。

そうです。蜷川のオイディプスはねぇ・・・とっても良かったですよ。観客は古代劇場に座って、シリアの王子が建てた紀元前フィロパプス記念塔を見ながら、お芝居を見ます。演技者はアクロポリスのパルテノンを間近に間ながら演じます。それはまるで神への奉納劇です。
しか~~~~し、ひとつ気になったことは、主役の方の声でありました。それ以外はもうパーフェクトでしたねぇ。

● lemonodasosさん。
「神への奉納劇」ですか。芸能の本来の姿ですね。
しかもギリシャ悲劇はいろんな種類のたくさんの神々が登場する
泥臭い人間臭い血みどろの世界観なので、素晴らしいと思います。
一神教じゃないというところがいいし、「完璧な神様」がいないというところもいい。
そういう意味では、日本の太古の神話の世界と似てますね。

先代の仁左衛門さんの晩年は、NHKがインタビューしたものを見たことがあります。語り口のやわらかな、品のあるステキな方でした。そこでは、このドキュメンタリーと違いますから、芸への厳しさを見せなかったように記憶しています。
話変わって、当代の仁左衛門さんが、今の役者の中では、一番の贔屓です。歌舞伎の入り口は当世勘三郎さんでしたが、仁左衛門さんの品と色気に出会ってから惚れ込んでます。歌舞伎座日参したいくらい(笑)
上方は、江戸とちがって、心中ものに代表される和事の芝居を継承しているので(この辺が素人コメントだね)、所作からして違うのでしょうね。
仁左衛門みたいなイキで、スイな人に為りたいものです。

へえ。いいねえ。日本に帰りたい。
歌舞伎の稽古を一回見に行ったんだけど、楽しかったです。宿題やらなきゃ、うきゃきゃきゃきゃ。このブログ楽しくてやめられません。

● cafenoirさん。
僕はあまり歌舞伎に詳しいとは言えないのですが
ナマで見てはじめて感じる役者のオーラとか、品とかってありますね。
そういうものは決して映像には定着させることが出来ない不可視のもの。
歌舞伎座に日参している人たちって実際にたくさんいるみたいですが
それだけの魔力を持っていると思います。
なにしろ
このドキュメンタリーは、基本的に監督さんがファンだから作られたものらしく
完全なるファン目線からの記録映像集です。
ドキュメンタリーでそういう立場というのは、逆になかなかありません(笑)。
なにしろ11時間もの長さをフィルムで見せてしまうのですから・・・
全部見るファンの方もたくさんいるようで、歌舞伎の魔力をそこからも感じます。

● ephaさん。
歌舞伎の稽古を観たとは、貴重な経験ですね。

亡くなる前に実際の舞台で観た先々代仁左衛門さんは、口上とかほとんど動かない役だけだったけれども、その大きさは若い僕でも理解できました。映画に出てくるかも知れませんが、「道明寺」での菅丞相のビデオを見ると、その美しさと品格の高さに圧倒されます。相手役の玉三郎も無茶苦茶綺麗だったし。
視力を失いつつ、最後まで芸格を保った姿には、感動するしかありませんね。

●quinquinさん。
実際に見られたなんて羨ましい。しかも玉三郎さんとの共演ですか。
実はこの映画と続けて「歌舞伎の魅力」という35分の短編文化映画も
上映されていたので、そちらも見たんです。
羽田澄子さんが仁左衛門さんと出会うきっかけになった映画なのですが
その当時70代の仁左衛門さんが、非常に若くてエネルギッシュで驚きました。
特に僕は最晩年の姿を↑この映画で見た直後だったので余計にその若さに
驚かされたのかもしれませんが。
「70代」というと、すでに隠居していてもいい年齢だと思われがちですが
人間というのは「活躍の場」さえあれば、
いつまでも若々しくいられるもんなんだと感じられました。
玉三郎さんとの稽古風景も出てきましたが、論理で議論をするというよりも
実際に唄や仕草のニュアンスを伝授しているようであり、その稽古風景も
歌舞伎独特だなぁと思いました。
身体から身体へ伝えられて行くものなんですよね、歌舞伎の芸って。
玉三郎さんの「芸を盗もう」とする真剣なまなざしが印象的でした。
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