工藤静香「深海魚」●アルバム「月影」レビュー10
捨てたのは正直な自分でしたか
飢えてても
いい娘のふりをしながら笑いもしたし
乱暴な唇は無口な声に慣れた
だけどほんとうは血の色までは変われない
覚えておいて
卑(いや)しいくらい
まだあなたを愛せるのよ

words:松井五郎
music,arrangement:Jin Nakamura
●REVIEW●
思いを遂げるために
自分の「声」を売り渡した人魚姫。
王子に思いが告げられない。
そもそも出自も境遇も違うのだ。
もがいても思いは届かず
無惨にも、王子は遠い誰かの物に・・・。
愛されたい。その気持ちが嵩じると
人は思いも寄らぬ「熱病」に罹る。
愛されるためだったら
自分のすべてを投げ打って
ボロボロになるまで
あがいてしまうこともある。
それが届かず叶わなかった時。
狂気にさいなまれた心は凶器と化す。
恋心の放つそうした毒を見事に表現した
これぞ「松井五郎の世界」。
そのドロドロ感が久々に味わえる曲である。
●工藤静香さんと松井五郎氏について●
1993年のシングル「あなたしかいないでしょ」以来、12年ぶりに松井五郎氏を作詞に起用。その事実は、長年のファンにとっては、かなりの「サプライズ」だった。
1987年のデビュー以来、後藤次利氏の作曲とプロデュースで数々のヒット曲を飛ばした彼女。1994年の「Blue Rose」からはセルフ・プロデュースを開始し路線を大きく変更。以降の大多数の曲は彼女本人(愛絵理)が作詞を担当することになった。そのため松井氏の起用はデビューからの6年間のみに限定されていた。もうこの組み合わせはあり得ないのかと思っていたところに、今回のアルバム「月影」で久々の起用。名コンビ復活となったのである。
僕は愛絵理の絵画的な詞世界が大好きである。表現者として自作詞にこだわる姿勢も素晴らしいと思う。セルフ・プロデュース初期の彼女からは「自分の言葉で歌いたい」というエネルギーがギラギラと伝わってきて、そのパワーには圧倒されたものだった。
しかし1996年から徐々に、他人の世界を再び取り入れ始めることになる。
「激情」や「雪・月・花」では中島みゆき氏を作詞に起用。
「Blue Velvet」「カーマスートラの伝説」では、はたけ氏のプロデュース。
「きらら」「in the sky」「一瞬」では河村隆一氏の作詞とプロデュース。
「深紅の花」ではYOSHIKI氏のプロデュース。
こうした90年代後半の流れは、セルフ・プロデュース作品とめまぐるしく混ざり合い、次から次へと新境地を開拓する姿が新鮮であり、ドキドキさせられた。彼女自身も「他人の色に染まって遊んでみる」ことを楽しんでいるかのようであり、純粋にボーカリストとしての彼女の能力を再認識させてもくれた。
「アイドル視」されがちなデビュー以来からの「他人にプロデュースされる状態」から脱却し、
セルフ・プロデュースにこだわる時代を経て、やっと獲得した歌手としての自由な活動姿勢。
その時々の欲求に従い、やりたいことをやってみて、自分の足でもがいてみた上で辿りついた新しい地平。それが彼女の現在だ。
この曲で久々に組んだ松井五郎氏は、おそろしいまでに女性心理への深い洞察力を感じさせる、これまた稀有な作詞家である。ドロドロとした毒気もはらんだその詞世界は、工藤静香の持ち味と相性がとてもいい。
このコンビでかつて生み出されたシングル曲を数えてみた。





1988年
●抱いてくれたらいいのに (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)
1989年
●恋一夜 (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)
1990年
●くちびるから媚薬 (作詞:松井五郎/作曲:後藤次利/編曲:Draw 4)
1991年
●ぼやぼやできない (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)
●メタモルフォーゼ (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)
1992年
●めちゃくちゃに泣いてしまいたい (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)
●うらはら (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)
●声を聴かせて (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)
1993年
●わたしはナイフ (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)
●あなたしかいないでしょ (作詞:松井五郎/作曲・編曲:後藤次利)





驚いた。なんと10曲もあったのだ!
デビューからの6年間、いわゆる「後藤次利作曲時代」のシングルは20曲。
そのうちの半分が松井五郎氏によるものだったとは・・・。
アルバム収録曲やカップリング曲も含めると、相当な数に上るのではないだろうか。
祝!名コンビ復活!
今後もぜひ、このコンビによる新たな展開を繰り広げてほしい。
(ついでに後藤次利氏とのコンビ復活は・・・難しいのかな?。彼の「上下に暴れまくる」メロディラインと複雑なリズム展開も、彼女ととても相性がいいとは思うのだが。)

「月影」
●PONY CANYONサイトで試聴できます。
●「Fe-MAIL」にアルバムについてのインタビューあり。
・・・連載『工藤静香 SHE SEA SEE』Vol.1・.2・.3・.4
●Real Guideに動画インタビューあり。
●音楽大好き!T2U音楽研究所に「月影」特集ページあり。
→FC2 同性愛Blog Ranking
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コメント
この記事へのコメント
凄い!全部歌える。そして何気に「松井五郎」さんって名前見ますよね?
彼の詩は結構好きです。
今度は「松井&静香」の↑の曲をカラオケでセレクトして歌ってみようっと。
工藤静香の歌はキーがあってるらしく歌いやすいのです。
彼の詩は結構好きです。
今度は「松井&静香」の↑の曲をカラオケでセレクトして歌ってみようっと。
工藤静香の歌はキーがあってるらしく歌いやすいのです。
男性が女性の歌を作った場合は、女性への「夢」を感じます。
それは、ファッションデザイナーと同じで、より女らしくと言う、男性の願望の現われではないかと思うのです。
それで、これらの歌が輝いているかもしれません。
女性が作った歌はやはり、よく聞くと違いますね。
どちらも、好きですが、かもし出す物の違いは大きいようです。
それは、ファッションデザイナーと同じで、より女らしくと言う、男性の願望の現われではないかと思うのです。
それで、これらの歌が輝いているかもしれません。
女性が作った歌はやはり、よく聞くと違いますね。
どちらも、好きですが、かもし出す物の違いは大きいようです。
●jyubonさん。
明石家さんまさんも松井五郎さんの詞を面白いと思っているらしく、
今年出たラジオ番組で「この人も不思議な人やな~」みたいなことを
静香さんに言ってました。
静香さんも「ね~、すごく不思議。」と応えています。
松井五郎さんの心の中には「女」が確実に住んでますね。
べつに同性愛者でなくとも、そういうタイプの表現者はたくさんいます。
というより、表現者はもともと「自由」な発想の持ち主であるから
自分をいろいろなものに置き換えて考えることが出来るのかなぁと思います。
この記事を書いて気づいたのですが
後藤次利プロデュース後期のシングルは、ほとんど彼の作詞だったんですね。
静香さんがセルフ・プロデュースをはじめたのは23歳の時。
当時の彼女にとって松井五郎氏というのは、
ヒットを約束してくれる安住の地でもあり、
飛び出して乗り越えて行きたい存在でもあり・・・。
自立する娘と、それを今まで支えていた父親のような関係だったのではないでしょうか。
だから今回、12年ぶりに父と娘が再会した。
勝手にそんなイメージで、この出来事を捉えています。
明石家さんまさんも松井五郎さんの詞を面白いと思っているらしく、
今年出たラジオ番組で「この人も不思議な人やな~」みたいなことを
静香さんに言ってました。
静香さんも「ね~、すごく不思議。」と応えています。
松井五郎さんの心の中には「女」が確実に住んでますね。
べつに同性愛者でなくとも、そういうタイプの表現者はたくさんいます。
というより、表現者はもともと「自由」な発想の持ち主であるから
自分をいろいろなものに置き換えて考えることが出来るのかなぁと思います。
この記事を書いて気づいたのですが
後藤次利プロデュース後期のシングルは、ほとんど彼の作詞だったんですね。
静香さんがセルフ・プロデュースをはじめたのは23歳の時。
当時の彼女にとって松井五郎氏というのは、
ヒットを約束してくれる安住の地でもあり、
飛び出して乗り越えて行きたい存在でもあり・・・。
自立する娘と、それを今まで支えていた父親のような関係だったのではないでしょうか。
だから今回、12年ぶりに父と娘が再会した。
勝手にそんなイメージで、この出来事を捉えています。
●seaさん。
女性への「夢」・・・なるほど。たしかにそういった面もあるかもしれませんね。
「夢」を「工藤静香」という存在に託して、これだけたくさんの歌が生まれた。
お互いに触発されるものがあったのでしょう。
だからあまりにも相性が良すぎて、血気盛んな頃の彼女にとっては
いつの間にかその作り出される「夢」が重荷になったのだろうと思います。
そしてスパッと今までのイメージを脱ぎ捨て自分が矢面に立つ道を選んで行く。
当時デビュー6年目。
ずっとヒットメーカーの作り出す言葉とメロディーを引き受け
流行歌手でい続けるという選択肢もあったでしょう。
そこで、そうはせずに未知の世界に飛び込むのが彼女らしいところ。
やっぱり売り上げは安定しなくなったし離れて行ったファンもいただろうけど
その時々に自分がやりたいことを追求した方が、
死ぬ間際に人生を振り返ったときに後悔はないだろうと思う。
僕は彼女の歌手としての活動から、そういったものを学んでいるんです。
女性への「夢」・・・なるほど。たしかにそういった面もあるかもしれませんね。
「夢」を「工藤静香」という存在に託して、これだけたくさんの歌が生まれた。
お互いに触発されるものがあったのでしょう。
だからあまりにも相性が良すぎて、血気盛んな頃の彼女にとっては
いつの間にかその作り出される「夢」が重荷になったのだろうと思います。
そしてスパッと今までのイメージを脱ぎ捨て自分が矢面に立つ道を選んで行く。
当時デビュー6年目。
ずっとヒットメーカーの作り出す言葉とメロディーを引き受け
流行歌手でい続けるという選択肢もあったでしょう。
そこで、そうはせずに未知の世界に飛び込むのが彼女らしいところ。
やっぱり売り上げは安定しなくなったし離れて行ったファンもいただろうけど
その時々に自分がやりたいことを追求した方が、
死ぬ間際に人生を振り返ったときに後悔はないだろうと思う。
僕は彼女の歌手としての活動から、そういったものを学んでいるんです。
「深海魚」
このレビューを実はずっと待っていました。
akaboshi07さんのレビューでますます好きな歌になった。
リピートにして、ずっと聴いてます、今夜は。
「だけどほんとうは血の色までは変われない
覚えておいて
卑(いや)しいくらい
まだあなたを愛せるのよ」
仕方のない露骨!
それが美しいことったらもう。
松井五郎さんの詞では、シングルではもちろん傑作揃いだけど、
「さよならLONELY これっきりLONELY」が一番好きかも。
このレビューを実はずっと待っていました。
akaboshi07さんのレビューでますます好きな歌になった。
リピートにして、ずっと聴いてます、今夜は。
「だけどほんとうは血の色までは変われない
覚えておいて
卑(いや)しいくらい
まだあなたを愛せるのよ」
仕方のない露骨!
それが美しいことったらもう。
松井五郎さんの詞では、シングルではもちろん傑作揃いだけど、
「さよならLONELY これっきりLONELY」が一番好きかも。
●秋ヲさん。
「さよならLONELY これっきりLONELY」
これも松井五郎さんだったんだ!
「Rise me」のオープニングで、声が艶っぽいので
僕も大好きでよく聴いたなぁ。
ジャズ調のロッカ・バラードで、その頃の静香さんの「王道」路線だね。
「さよならLONELY これっきりLONELY」
これも松井五郎さんだったんだ!
「Rise me」のオープニングで、声が艶っぽいので
僕も大好きでよく聴いたなぁ。
ジャズ調のロッカ・バラードで、その頃の静香さんの「王道」路線だね。
ごぶさたしてしまいました!来てない間に色々あったんですね・・・。てか僕の相方との付き合いはじめて間もない頃のことを思い出しました(笑)僕もakaboshi07さんと同じ様に暴走したり拗ねたりしてましたよ(笑)けどそれがあるからお互いの事がわかり合えたりするきっかけになるし、一生モノのパートナーになっていけるプロセスなんですよね。僕らも何だかんだありましたが只今9年目でございます☆ おっと!ここは姉さんネタを書かなければ(笑) うちの相方も松井五郎の書く詞は好きみたいで影響うけたみたいです。確かに五郎さん作の姉さんの曲はどれも名曲ですもんね☆あ~っ!Rise me とか懐かし~!久々に聴きくなってきたぞ(笑)
●SHIN'YAさんひさしぶりっ!
9年も続いてるなんてすごいね。
初期の頃を思い出すとか言ってもらえると、とても慰められます(笑)
ありがとう。
松井五郎さんとバリバリに組んでた頃って、すごく彼女としても
エネルギー全開の時期だったので、
久しぶりに聴くとエネルギーたくさんもらえますよ~。
9年も続いてるなんてすごいね。
初期の頃を思い出すとか言ってもらえると、とても慰められます(笑)
ありがとう。
松井五郎さんとバリバリに組んでた頃って、すごく彼女としても
エネルギー全開の時期だったので、
久しぶりに聴くとエネルギーたくさんもらえますよ~。
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