大木裕之「メイ2004-2005ナイフMIX」●MOVIEレビュー

8/6~8/8に東京国際フォーラムで開催されていた「アートフェア東京」のイベントで偶然見ることが出来た。無料の自由入場。
やはりこの手の映像は好みが分かれるらしく、前回紹介した
「木(ム)623MIX」に続いて上映されたのだが、観客は三分の一ほどに減っていた。寂しい。
しかし、残ってこの50分の中編を見続けた観客の映像への「食い付き方」は半端なものではなかった。拒否する人も多くいる分、ハマる人はとことんハマる。人間と人間の関係というものもそういうものだ。アートというものも本来、それでいいんじゃないかなぁ・・・という風に納得しておくことにしておく。でもやっぱ寂しいけど。
ナマで「美」を捕まえたい。

長編であるためか、映されている人々の顔やキャラクターがよりわかりやすく見えてくる。結果、大木氏という個人が関わりを持ち感心を持っている事柄が生き生きと立ち現われてくる。
カメラを廻しながら、言いたくなった言葉を即興詩のようにつぶやくことも試みられている。
思い描いた言葉をメモに記し、そのままカメラに映し込むことも実践している。
既成の「映画」が「美」だとするカメラ・ワークやフレーミングの約束事など、最初から意識にはないかのよう。むしろそうした「美」を「美」とはせず、もっと本質的な「美」をナマのままに捉えようとするのがこの映画。さらに、その試みそのものに「美」を発見し、記録しているかのようだ。
より具体的なゲイ・ライフへの踏み込み

イライラしている時なんかは世の中への恨み節のようなことをつぶやいたりして・・・。すぐにそうしたトゲトゲした感情に襲われがちなところも、同じゲイの僕としては親近感が持てるところだ。
人は一日のうちに意味もなくいろんな感情を味わい、忘れ、また繰り返す。その繰り返しを意識的に記録し提示するのがこの映画。そしてその瞬間すべてがいとおしく美しい。
この映画はまるで金太郎飴のようだ。どこから切っても作者と「美」との格闘がある。
「付きあってみた」彼との別れ。

「突然のことで、どう受けとめていいのかわかりません。」と語る液晶画面の文字。しかし文末では別れを受け入れていることから察するに、お互いに別れのタイミングを探りあうような関係になっていたようである。
「悲しい、寂しい。」とカメラに向かって独白する顔。そこには、ドラマティックでも感情的でもなく淡々と事実を噛み締めるフツーの一人の中年男の姿があるだけ。
ゲイというものは男女のカップルとは違い、家庭的な結びつきというものを持ちにくい。関係性も脆く儚くなりがちである。そんなことまでがなんだか滑稽に思えてくる。大木氏には失礼だがとてもユーモラスな名シーンだと思った。
その後、大木氏は違う若い男の子を引っ掛けて軽く遊んでしまう(笑)そこまでカメラを廻して作品に組み込んでしまうとは。いやはや肝が据わっている。
ゲイとしての恋愛模様も人生という「美」の、世界という「美」のほんの一断片。考えようによっては本当に率直に、混じりけなく当たり前に世界というものを見つめた、まっすぐな映画なのではなかろうか・・・というのは持ち上げすぎか?(笑)
そこに美を見るから美になるのだ。

「美」というものは、自分が「美」だと感知するからこそ「美」たりえるのだ。かつ同時に、そもそも自分が感知しなくとも世の中はすでにそのものが「美」なのである。
印象的なシーンがあった。
大木氏のアパートの窓から見える何の変哲もない外の景色。
遠くの方に見える何の変哲もない林の木々のざわめき。
ある時そこに「美」を発見し、大木氏はカメラを廻す。カメラを廻したくなった気持ちを即興的につぶやきながら。
この映画全体を、そして彼の映画というものが象徴されたような名場面だ。
何の変哲も無くとも、その時の自分が引っかかり、意識し、やがて求めて行くもの、それが「美」。
ここまで描ききった以上、彼は次にどこへ行こうとしているのだろう。
やはり同じことを繰り返し続けるのだろうか。きっとそうだろう。
彼の哲学では、きっとそういうことになる。
そのこと自体、僕は美しいと思う。いろんな意味で触発された。

2004-05/50分
制作/FOU production
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☆記事中の画像は、当日の東京国際フォーラム周辺です。映画の内容とは直接関係ありません。
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あなたのブログでこの作品を知りました。私も機会があれば観てみたいと思いました。今やオープンになっているようで実は何も昔とかわらないゲイへの認識や彼等の心とかを少し理解できる作品なんでしょうね。追伸:私どものブログにも遊びに来てみて下さい。
●DF staff tomitaさん。
大木さんの作る映像は、ゲイというものの本質をうまく含んでいると思います。
ゲイが見るとかなり共感できるのですが、そうでない人には
どう見られているのか、感じられるのか気になるところではあります。
大木さんの作る映像は、ゲイというものの本質をうまく含んでいると思います。
ゲイが見るとかなり共感できるのですが、そうでない人には
どう見られているのか、感じられるのか気になるところではあります。
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