今泉浩一「初戀 Hatsu-Koi」●MOVIEレビュー

11月3日までシネマアートン下北沢で上映されていた映画「初恋」の主人公は、まるで捨てられた子猫のようだ。軽くて薄くて飛ばされやすくて、いまにも消えてしまいそう。思春期に同性を好きになり、「性の不安」に向き合ったことで「生の不安」を意識した。その直後の心理描写が最も印象的。駅のプラットホームに独りで立ちすくみ、早回しで通り過ぎる電車や人々の中、ふわふわしたままで無表情のまま、立ち尽くす彼。
この主人公のような「ふわふわ感」を醸し出す人って、どこかでたくさん見かける。そうだ。新宿二丁目の路上やコミュニティー活動の場などに出掛ければ、たくさん会えるのだ。なんともいえない所在無げな身体感覚を持つ、浮き足立った人々に。もしかしたら自分も、その一員なのかもしれないが。
ふわふわしたままの主人公は、ひょんなことからゲイの仲間に出会う。そして「好きだよ」と言ってくれた人と付き合うようになり、アッという間に同性結婚式へとなだれ込む。なんという急展開。新宿二丁目のコミュニティーセンターaktaで撮影されたセレモニーの場面は、とても「この世のものとは思えない浮遊感」を漂わせていた。
地に足が着いていない。天使のような幽霊のような。感情の「ある部分」が、欠落しているかのような生命力の希薄さばかりが印象に残る。見えるのに見えない。生きているのに死んでいる。そんな感じ。
そんな「生のありよう」は、今なお制度上は「いないことにされている」、この国の同性愛者の寄る辺なさを象徴してはいないだろうか。そんなことを思ったとき、寒気が走った。シュガーコーティングされた笑顔を装いながら、実はとんでもなく恐ろしい映画なのではなかろうか。→FC2 同性愛Blog Ranking
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