劇団フライングステージ「ムーンリバー」●PLAYレビュー

川というのは不思議なものだ。
一人になりたいとき、心を開放したいときに川原に出かけると、なんとも言えない安らぎと静けさをくれる。特に夜の川原に月が出ていたりすると最高だ。目の前に広がる世界の大きさ。川面に映る「きらら」の明滅を眺めているだけで、時の経つのを忘れて魅入り、あれこれと取りとめもない思いが次から次へと溢れ出して行く。
ゲイの劇団フライングステージが上演した「ムーンリバー」の舞台は、中央に大きな満月を配した舞台美術がとにかく美しかった。そして、階段状になっている川岸から主人公がぼんやりと川面を見つめるとき、その視線の先にある客席に座っている自分が、まるで冥界の住人になったかのような気がした。
「ゲイであることの目覚め」に戸惑う中学生の男子の日常を、「大丈夫だよ、平気だよ。」と、そっと応援しながら見守る感じ。そこには、かつての自分と同じような壁にぶつかりながらも、自然体でぶつかって逞しく乗り越えて行く少年の、まっすぐで切実な姿があった。
少年が川原に来ると、きまっていつも幽霊が現れる。大門伍朗氏の演じた「芸者ゲイ」の幽霊は、派手派手しい格好と大仰で荒々しい振る舞いで少年をからかい、同時に客席を大いに笑わせる。次第に、その幽霊は少年の心の中に棲むグロテスクな「本音の化身」なのだということが観客にはわかってくる。
自分の中に棲む「魔物」から逃げず、肯定的に認めて受け入れたとき、人は本当の意味で人生の楽しみ方を知り始めるのかもしれない。幽霊との付き合い方を知った時、少年は人生を楽しみ始めたのだ。
少年は恋心を抱いていた。家に住み込みで働いている年上の青年に。ラジオから語りかける「ゲイのみなさん。こんばんは」というタックさんの声が、そんな少年を刺激する。自分はもしかして、ラジオのパーソナリティが言っている「ゲイ」と呼ばれる人たちの仲間なのかもしれない・・・驚きと不安と興奮と。川原の幽霊はその感情をさらに引き出すかのように少年を刺激し続け、恋の素晴らしさを説き、未知の世界に跳び込むようにと促し続ける。
そして嵐の夜。
少年は青年と同じ部屋で、隣り合って眠る幸運を得る。
大好きな青年と。

すぐ隣で大好きな人が寝息を立てている。
荒れ狂う夏の嵐の中。
誰にも見られない。
音も漏れる心配は無い。
そして何より少年にとって嬉しいのは、その青年も「ゲイ」なのかもしれないという噂を仕入れていたことだ。自分の願いは届くかもしれない。しかし、もし彼がゲイではないのだとしたら大変なリスクを負うことにもなりかねない。
恋に狂ったらどんな人でも大胆になる。「彼に触れたい、近づきたい」という思いは激しく高まって行く。嵐に後押しされるように。
少年は、やっとの思いで青年に触れることが出来るのだが、青年はそれに気付いているのかわからない。相変わらず寝息を立て続けている。寝返りを打ったりしている。気付いているのか?いないのか?
気付いていても、気付かぬ振りをしているのかもしれない。
その、もどかしさ。
翌日、少年の初恋は無残にも砕け散った。しかし少年は、彼と出会ったことで自分が「ゲイである」という抑えようの無い本性を知った。
ゲイの未来はそこからはじまる。
少年はこれから、自分を受け入れる旅に出発するのだ。

1979年 秋
台風、ラジオ
初めて聞いたゲイという言葉
僕の初恋
2006年8月9日(水)~13日(日)
中野 ザ・ポケットで上演。すてきな時間をありがとうございました。
作・演出:関根信一
出演:関根信一/石関 準/小林高朗/野口聖員/早瀬知之/阪口拓也/ますだいっこう/東じゅんぺい/羽田 真/加藤記生(宇宙堂)/木村佐都美(おちないりんご)/西田夏奈子/大門伍朗
美術:小池れい/照明:福田さやか/音響:樋口亜弓/衣裳:石関 準/舞台監督:笹原千寿/宣伝美術:佐久間記代子/宣伝写真:サトウカオル/稽古場:にしすがも創造舎/助成:芸術文化振興基金/制作:劇団制作社/プロデューサー:樺澤 良/製作:劇団フライングステージ
関連記事
●劇団フライングステージ「ムーンリバー」は、あたたかい。
● 「ゲイのみなさん、こんばんは」

「二人でお茶を tea for two」
作・演出:関根信一 出演:森川佳紀・関根信一
日時:9/16(土)15:00~ 19:00~
9/17(日)18:30~(開場は開演の30分前)
会場:札幌BLOCH(ブロック)
(中央区北3条東5丁目5 岩佐ビル1F)
料金:前売り¥2,000 当日¥2,300
主催:第10回レインボーマーチ札幌実行委員会
HSA札幌ミーティング
後援:THE BODY SHOP
●劇団フライングステージ公式サイト
→FC2 同性愛Blog Ranking