「ゲイのみなさん、こんばんは」

1979年当時「スネークマンショー」という深夜番組で、大塚隆史さんが「ゲイとして」パーソナリティーを努めたという先駆的な番組の音声。ラジカセから流れてくる語り口は柔らかくて温かみがあって、とても印象に残る音声でした。
舞台として設定されている70年代当時はインターネットなんてなかったわけだし、ゲイが「自分がゲイである」ことに気付いた時、それを自分が受け止めるためには今よりもずっと大きな孤独と戦わなければならなかったはずです。そんなたくさんのゲイたちにとっては、パーソナリティーが「ゲイである」ことを実名で公表し、「ゲイのみなさん、こんばんは」という挨拶と共にゲイに関する情報をゲイに向けて発信するラジオ番組が週に一度流れていただなんて、どれだけの精神的な安らぎをもたらしたことでしょう。もし僕が当時を中・高生として過ごしたならばきっと、ものすごい情熱で「こっそり」聴いていただろうし、女の子を好きになることが出来ない自分のことを、もう少し自然な形で受け入れられたのかもしれないと思います。
「ムーンリバー」では、当時を中学生として過ごしたゲイの主人公が男性に初恋をする甘酸っぱい感情とか、彼以外にも「ゲイなのかもしれない」=セクシュアリティーに「揺らぎ」のある人たちが複数出てきます。彼ら/彼女らの一人一人が時代状況の中で孤独と向き合い、でも「したたかに」生き抜こうとする姿が温かく、かつシビアな視点から描かれています。
そして、人と人とが繋がり合うこととは、どういうことなのか。別れて行くこととは、どういうことなのか。さらには、本当に人と人とを結びつけるメディアのあり方って、どういうものなのか。そんなことについても大いなる示唆を与えてくれる素敵な舞台だと感じました。
僕はゲイとして生まれ、ゲイである自分を受け入れたから、こういう舞台と出会うことができました。そして、こういうことを考える機会を与えてもらってもいるのです。リスペクトすべき多くの先人たちの存在とか、精神のあり方も徐々に知りつつあります。それは実は、とても豊かなことなのかもしれません。
今、そのことに本当に感謝しています。
●劇団フライングステージ公式サイト
●大塚隆史さんの経営するゲイバー「タックスノット(Tac's Knot)」
→FC2 同性愛Blog Ranking

関連記事
●劇団フライングステージ「ムーンリバー」●PLAYレビュー
スポンサーサイト
劇団フライングステージ「ムーンリバー」は、あたたかい。

昨日は、ひさびさにホッと心がくつろぐ時間を過ごすことができました。先日「第15回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」の会場で出会ったレズビアンの知人と一緒に、劇団フライングステージの素敵な舞台を観たからです。
彼女と再び隣り合って座り、今度は一緒に舞台を観る。しかもお互いのことを隠さずに知り合いながら。ただそれだけで、どうしてこんなに心がくつろぐんだろうと思うくらい、彼女は僕に安心感をもたらしてくれます。彼女は小柄なのに、発するオーラが温かくて包まれるような感じがするのです。(そんなこと直接本人には言えませんけどね~。笑)

たしかあの頃はまだ「自分がゲイであること」を受け入れられず、おっかなびっくりの状態でネットを恐る恐る見ながら情報収集していた時期(爆)。この劇団のことを知った時は、ものすごく衝撃を受けた覚えがあります。すぐにどうしても観に行きたくなったけれど、ゲイの人たちばかりが集まる場所に行くということへの抵抗感が強く、さらには「知り合いに会ったらどうしよう」という警戒心も働き、なかなか行くことが出来ませんでした。
機会を逃し続けてようやく一大決心をし、ふだんの外出時には決してかけることのない室内用メガネまでかけて変装をし、呼吸困難に陥りそうになりながら、今回と同じ中野ザ・ポケットに足を踏み入れました。「受付にいる人もゲイなんだ」「客席の人たちもゲイなんだ」「舞台に出てくる人もゲイなんだ」「うっわ~」・・・。そんな風に、目の前で繰り広げられることの一つ一つに衝撃を受け、心臓が張り裂けそうになりながら演劇を観るという・・・今から思えばピュアでスリリングな観劇体験だったことを憶えています。
あれから2年半しか経っていないのにも関わらず(笑)、昨日は全く緊張することもなく劇場ロビーで彼女と待ち合わせをし、誰の目を気にするでもなく開演前の客席でおしゃべりをし、コミカルな場面では思う存分笑ったり、グッと物語に引き込まれたりしました。
今回の演目はゲイの劇団員以外に外部からの客演が多かったからか、客席も様々な人たちで埋め尽くされていました。物語や演出的な趣向も丁寧に組み立てられていて、以前見た時よりも演劇作品としてのクオリティーが高くなっていて驚きました。さすが30回も公演を重ねているだけのことはありますね。関根信一さんの劇作家としての手腕と、演出家としての作品構成力に敬意を表したいと思います。そして、それを支えている様々な分野のスタッフさんたちの技術力にも。
まだ公演中ということもあるので、ネタバレを避けてレビューは後日、掲載します。
上演は13日(日)まで。
東京近郊の人はぜひ、劇場でしか味わえない濃密で人間的な時空間を過ごしに出かけてみてください。(★最終日のチケットは既に売り切れているようです。) →FC2 同性愛Blog Ranking
関連記事
●「ゲイのみなさん、こんばんは」
●劇団フライングステージ「ムーンリバー」●PLAYレビュー