ジャック・ベッケル「モンパルナスの灯」●MOVIEレビュー

1959年に亡くなったフランスの俳優ジェラ-ル・フィリップ。最近、彼の映画祭が頻繁に開催されている。先日、池袋の新文芸坐で行われていた映画祭に、はじめて出かけてみたのだが驚いた。超満員なのである。しかも客席のほとんどを中・高年の方々が埋めている。女性が圧倒的に多いのだが男性もけっこういる。ジェラ-ル・フィリップとともに1950年代の映画全盛期を体験した世代なのだろうか。絶世の美男子であり、理知的な名俳優だった彼にスクリーンで会うべく、今でもワクワクしながら出かける人たちがこれほどたくさんいる。そのことにまず感動した。
余白の豊かさ
映画は画家モディリアーニの生涯を描いたものなのだが、どうしても以前見たミック・デイヴィス監督の「モディリアーニ~真実の愛~」と比較しながら見てしまう。「モディリアーニ」の方は最近の映画なので予算をふんだんにかけ、ロケ・セットも豪華に組みエキストラも大量に動員しながら、めくるめく映像技術を駆使して彼の人生絵巻を派手に具現化していた。
それに比べ「モンパルナスの灯」は地味である。ドラマティックな展開は最小限に抑えられ、過度なBGMを抑制し、主演のジェラ-ル・フィリップの演技に観客の視線が集中できるように作られている。きっと余計な小細工などは必要ないのだ、一人の名優さえいれば。

この映画はモノクロであり、セットも美術も最小限。物語としてもモディリアーニが晩年、貧しさの中で芸術家であり続けようと格闘した姿を丁寧に繊細な芝居で見せている。演出には程よい抑制が効いていて、余白や「間」がたくさんあるから観客は自由に想像の翼を羽ばたかせることができる。
めくるめく映像技術の発達とリアリティー表現の追求が名画を生み出すとは限らない。むしろ表現技術の追求ばかりに目が眩み、映画の表現を「貧困」なものにしてしまっている場合もある。「モンパルナスの灯」は素朴な映像技術で簡素に作られているので余白がたくさんある。しかし余白が観客に提供してくれる精神性の豊かさについて気付かせてくれる映画でもある。
死ぬのを待たれていた画家
数々のモディリアーニ伝説の中でも「モンパルナスの灯」で監督が浮かび上がらせたのは、当時の美術界の「闇」の部分である。モディリアーニは生前、ほとんど評価されなかった。しかし実は彼の才能に目を付けていた画商がいたのである。
リノ・ヴァンチュラが演じた画商モレルは、モディリアーニが評価されそうになるとわざと悪評を振りまき、つぶして廻る。しかし内心では彼の才能を評価していて、画家本人が死んだら安値で買い取り、高く売り出すことを企んでいたのだ。無表情でじわじわと、モディリアーニを邪魔し続ける彼の存在感。その策略家ぶりは身震いするほどリアリティーがある。

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LGBT可視化に向けて011●日本テレビ、「LGBTに関する公平な報道を求める要望書」への回答を寄せる

放送に含まれていた「ホモフォビア的な」描写や言葉について、TOKYOPride、第10回レインボーマーチ札幌委員会、ゲイジャパンニュース、尾辻かな子さん の連名で日本テレビに抗議書が提出されていました。その回答が寄せられたことを本日、「Act Against Homophobia」ブログが伝えています。
→「日本テレビからの回答書」
僕としては、特に下記の引用部分をしっかりと、記憶に留めておこうと思いました。
なお、当ブログでは番組内容について細かく検証しています。掲載間隔が開いてますが、やめたわけではありませんよ(笑)。今後も少しずつですが長期にわたって「テレビ表現における他者表象の問題」特にマイノリティー描写について考える契機にしようと思います。いつ掲載するかは神出鬼没ですが(すみませ~ん。)気長にお付き合いください。弊社では日本民間放送連盟の放送基準第77条「性的少数者を取り上げる場合は、その人権に十分配慮する」を順守し、視聴者の皆様、特に性的少数者の人権には配慮を重ねるべく、指導をしております。また、「放送と人権」の観点からも、外部より講演者を招くなどして、新入社員向けの人事研修プログラムをはじめとして、通年のプロデューサー研修等、人としての学びの場を設け、研錬を積んでおります。
しかしながら、貴委員会のご指摘にもありましたように、一部番組で差別を助長すると受け止められるような表現があったならば、まことに遺憾です。ご指摘のひとつひとつを真撃に受け止め、今後の番組制作に活かすべく局内での周知徹底に努める所存です。
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