LGBT可視化に向けて009●尾辻かな子さん、ロシア領事館に抗議文提出

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●ロシア 余禄
記事を読んで面白いと思ったのが、A・A・ノスコフ領事が尾辻さんに「日本で大きなニュースになっていたのですか?」と問いかけ、「いいえ、日本ではほとんど報道されていません」と尾辻さんが応えたというやりとり。
領事館とか大使館の人たちって自国の問題がどのようにメディアで報道されているのか、注意深く気にしているのではないかと思っていたのは僕の思い込みだったようで(笑)。というよりも、LGBT問題はそれほどまでに彼らの中で「小さな問題」として処理され、看過されてしまっているのかなぁということを感じさせる、象徴的なやりとりだと思いました。

だからこそ、今回の「抗議文提出」という行動はインパクトがあったのかもしれません。日本にもロシアと同じようにLGBTがいて、あのニュースに怒りを覚える人たちが実際に「いる」。そして「抗議文」を提出するという行動まで起こす人が「いる」。・・・まず、現段階ではとにかくこの「いる」ということから打ち出すことが必要なのだということが、尾辻さんたちの行動を見ていてわかります。実際に目の前に「当事者」が現れることって、お互いに人として親近感を持つきっかけになるし、その後も想像力を持てるきっかけになりますからね。
モスクワ市長の微妙な立場
領事との会話では、現在モスクワ市長が置かれている「微妙な立ち位置」が説明されたようです。要するに・・・
●プライド・パレードを許可すると
→ロシアの伝統、人々の意識の中で同性愛者はまだまだ受け入れられていないため、市民から批判を浴びる。
●プライド・パレードを不許可にすると
→海外からの批判を浴びてしまう。

う~ん、なんだかなぁ。
領事が言う「人々の意識」というその「人々」の中にも、LGBTは含まれていないということが伝わってきますね。まだまだロシアでは同性愛者であることを公言すると「人ではない」というニュアンスで捉えられたり、当事者としては自分の中で抱え込み、切実な思いを「無いもの」としなければならない現実があるようです。だからこそ暴力が行われている渦中にも関わらず国会議員が選挙対策でマスコミの前で演説を堂々としてしまうこともできるわけで。
ただ、考えようによっては、結果的にこのような事態になってしまったことでロシアの現状が世界のLGBTたちに、従来よりも鮮明に具体的に「可視化」されたということも出来ますよね。だから国外にいる我々としては、こうした事態が二度とロシアで繰り返されないよう、「非暴力的な方法で」抗議をし、彼らを応援する世論を作るべきだと思います。
ロシアを知らねば。

尾辻さんの情報によれば、今年の関西クィアフィルムフェスティバルと東京国際レズビアン&ゲイ映画祭では、ロシア初のゲイ映画 「YOU I LOVE」 が上映される予定だそうです。
ちょっとずつ可視化されてきたロシアのLGBTたちの動き。「可視化がまだまだ途中段階」という点では僕らと共通の悩みもいっぱいあるだろうし、お互いに知り合うことで得られることは、きっとたくさんあるのではないかと思います。今後もロシアのLGBTたちに関する情報や知りえた知識はこのシリーズに書いて行きますので、皆さんも何か知っている情報がありましたら、教えてくださいね。
<当ブログ内関連記事>
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●世界がもし100人の村だったら
●モスクワでの事件を詳しく見てみる。

尾辻さんは7月までしばらく、アメリカに視察に行かれるそうです。→FC2 同性愛Blog Ranking
『カポーティ』でゲイ作家を演じた主演俳優のインタビューが『PLAYBOY』7月号に掲載

今年のアカデミー賞レースで作品賞、監督賞、主演男優賞などを『ブロークバック・マウンテン』と争ったことでも記憶に新しいアメリカ映画『カポーティ』(ベネット・ミラー監督)。
日本での公開は10月からなのですが、そろそろキャンペーンが始まったようです。現在発売中の雑誌『月刊PLAYBOY』7月号には、主演のフィリップ・シーモア・ホフマンのロング・インタビューが7ページに渡って掲載され、ゲイであった作家を演じたことについての印象などを詳細に語っています。ちなみに彼はこの映画の演技により、今年のアカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞しています。
インタビュアー(スコット・ユベール)
「あなたのキャリアを見てみると、ゲイの役を引き受けることにはとくに躊躇していないように思えますが、一方で、いまだにこれをタブー視している俳優もいます。実際のところ、あなたはたとえゲイ役を演じても、その後のキャリアに悪影響が及ぶことなどないと思いますか?」
フィリップ・シーモア・ホフマン
「その点については気をつけないといけないよね。現段階でもそれはやはり微妙な問題だと思うし、これからも変わらないだろう。でも自分にとってそれが問題になったことはないし、かといって、それゆえに私がもっとも優れた人間だとかそういうことでもない。自分の場合、キャリアの初期の段階から自分が演じたい役を演じようと考えていたし、結果的にゲイ役もあればそうじゃない役もあった。なかには性倒錯者役もあったしね。でも私が魅かれるのはやっぱりストーリーそのものなんだ。性的マイノリティーの役を演じるときに、俳優がその役に対して最大の敬意を払うとしたら、それは性的な問題それ自体ではなく、その役の人間性を表現することだと思う。そういった人たちの人生や人間関係、日々彼らが苦悩しているという事実をね。」

インタビューでは他にも、役を造形する上で気をつけていることとか、俳優としての生き方、映画についての考え方を非常に思慮深く丁寧に語っているので読み応えがあります。インタビュアー
「『カポーティ』や『フローレス』『ブギーナイツ』の役を選んだのは、あなた自身の中にあるフェミニンな部分を探求したかったからではないですか?」
フィリップ・シーモア・ホフマン
「ああいった役を演じたのはそれが理由でもあると思う。つまり、誰だって自分のフェミニンな部分に触れることはできるはずだし、それに私自身、それが実際にはどんなものなのかなんてわかっていないわけでね。というか、真面目な話、誰にもわからないんじゃないかな?それがどんなものか、なんてね。私には男性よりも女性のほうが強いように思えるし、感情面で言えば、男はとてももろいと思う。私は、そういった役を通じて自分の繊細な一面に触れていたんだと思う。」

それにしてもこの人は本当に、役によってコロコロと外見まで含めて変わることの出来る人ですね。主演映画こそ少ないですが、数々の脇役で独特の存在感を示す演技力は只者ではありません。現在38歳だというホフマン氏ですが、派手派手しいハリウッド・スターとしてのゴシップ世界からは距離を置き、私生活をマスコミに切り売りすることを拒んできたため「素顔が見えにくい人」としても有名だそうです。インタビューを読むと、それも俳優としての本人のこだわりであるということがわかります。
いいなぁ~、このストイックな姿勢(笑)。そういえば、日本ではかつて、『男はつらいよ』の寅さん役で有名な渥美清さんが、同じようなこだわりから素顔を見せることを極端に嫌い、マスコミとは一線を置いていましたっけ。いまどき珍しいこの役者魂、ぜひ保ちつづけてほしいなぁ~。「重要なのは、誰が何回結婚したかとか趣味は何かとか誰とつきあっているのか、なんてことを観客が知り尽くしていたら、その俳優が役になり切っていたとしても観客にリアルに感じてもらうことがとても困難になるということだ。たとえば私が貧しい人にほどこしをしているとか、妻を殴っている、なんていう記事が掲載されたがために、私の演じる悪役や善玉役に観客がのめり込めないとしたら、それは観客を騙していることになると思う。」
映画『カポーティ』は、作家トルーマン・カポーティが小説「冷血」を書くまでのエピソードを中心に、その後アルコール中毒で身を持ち崩し59歳で亡くなるまでの晩年の姿も詳細に描く「伝記」的要素の濃い映画であるようです。すでに日本でも映画館で予告編が流されていますが、声から姿形から、不思議な存在感のあるカポーティがスクリーンに登場すると一瞬「ゾッ」とします(笑)。作家がゲイであったということについてもちゃんと描かれているようですので、どのような描写がされているのか公開が楽しみです。

インタビューの掲載されている『月刊PLAY BOY』 ですが、男性向けエロ雑誌というイメージが強い割には意外とエロ・グラビアのページが少ないのでゲイが買っても損はしません(笑)。それどころか、実はかなり骨太でジャーナリスト魂に溢れた鋭い記事が数多く掲載されているので、愛読してま~す。→FC2 同性愛Blog Ranking
●映画「ブギーナイツ」・・・ゲイ役で出演
●映画「フローレス」
● 「PLAYBOY 日本版 2006年 07月号」
●トルーマン・カポーティ著「冷血」