「yes」創刊の波紋010●僕を泣かせた記事のこと

必読のレビューが掲載されています。
昨日、食堂で「yes vol.2」を読んでいたら、自分でも予期せぬ事態に戸惑いました。
「ブロークバック・マウンテン」に関する特集を読んでいたら、突然泣いてしまったのです。(もちろん声は抑えましたが。)しかも同じ記事を読みながら3回も。そんな自分に、自分で驚きました。
その罪な記事とは、P.10~11に掲載されている「クローゼットの闇に迷い込まないための、ブロークバック山の案内図」という記事。
すごいです、これ。・・・映画を観た後に読むと、かなりハマってしまう文章です。
この映画に関するレビューはこれまでにもたくさん書かれているし、日本のメディアのものは僕も探してたくさん読んだけど、これほど胸をグッと鷲づかみにされた事はありませんでした。それはやはり、この記事が「ゲイ」の視点から率直に書かれているからだと思います。
他のメディアがこれまで取り上げてきた、この映画に関する言説というのは総じて異性愛者(「ストレート」)からの言葉でした。もしかしてLGBTの人が書いたものもあったのかもしれませんが文章上は「ストレート」を装っています。そして読者としても「ストレート」の人たちを想定して書かれています。
だから、ゲイの僕が感じた事とはだいぶ離れている印象を持つことが多かったし、僕としてもそれらの文章を読みながら
「ストレートはこういう風に感じるんだ・・・。」
「ストレートの人たちに向けて、こういう書き方で宣伝されるんだ・・・。」
ということを気にしながら、チェックするような気持ちで読んでいたように思います。どれを読んでも、この映画が果たした成果を本当の部分ではわかっていないのに、わかったつもりで格好付けて書かれているような感じだったし、曇ったフィルターがかかっているような感じもしていました。
だけど「ブロークバック山の案内図」は違います。ゲイの筆者が、ゲイの読者向けに書いています。たったこれだけのことなのに、こんなにも大きな違いがあるのかと驚いたし、その分、予想もしていなかった強度で僕の胸に言葉が飛び込んできました。どうやらあまりにも無防備にそれに触れてしまったので、ショックで嗚咽してしまったみたいです。もともと理由がわかって流す涙などありませんが、後から「あの涙の意味」を必死で分析してみたところ、どうやらそういうことだったみたいです。
この記事の中で、僕が特に強く印象に残ったのは、次の言葉でした。
こんなことをはっきりと言う文章、今まで出会いませんでした。そして僕自身も言う勇気を持てませんでした。「ストレート」側からの言説の嵐に飲まれ、それに対する抵抗感や違和感を、いつもの癖で押し込めてしまっていた自分の弱さに気が付きました。そして、現状のメディアがいかに「ストレート」側の言説に溢れているかということを痛感したし、なおさらLGBTの視点から発せられるしっかりとした言説に触れられるメディアの必要性に気がつきました。映画は「これはゲイのカウボーイの話ではない。もっと普遍的な愛の物語だ」と宣伝されるが、これが「ゲイ」をプロモートしていないならば何だというのか。
いやそれはしかし、右派の文脈での物言いである。これは「プロモート」ではない。
これはむしろ、汚名の返上なのである。「同性愛」というものに塗りたくられた歴史的文化的宗教的なスティグマを熨斗(のし)を付けてお返しする。これは実は頬かむりした確信犯の仕業なのである。
「ブロークバック・マウンテン」について、ゲイの視点から発せられるレビューが日本の一般メディアには今のところ「全く」掲載されていないという事実。それがこの国のLGBT言説の現状です。だからこそ、この雑誌の存在意義があるのです。そして、もっと力を持った媒体に育って行くべきなのです。
「開かれた」そして「日常的な」LGBTメディアの必要性
僕ら日本のLGBTはまだ、日常的に「自分たちの視点や感性」で発せられるマスメディアに接することが出来ません。相変わらず「ストレート」が常識とされる価値観で覆われたマスメディアばかりの中で、知らず知らずのうちにストレスを溜め込みながら生活しています。
(たとえば僕の場合、「男らしさ」とか「女らしさ」を喧伝するテレビのCMを見ているだけでも違和感を感じるし、「男女交際」という風にしか恋愛が語られない場面で疎外感を感じます。・・・「自分は当てはまらないなぁ~っ」と思って変換作業をしてはいますが。笑)

さらにこの雑誌の画期的なことは、門戸を全ての人々に対して開いているということです。一般書店で他の雑誌と堂々と肩を並べているのですから、不特定多数の人が手に取る可能性があるでしょう。それこそが大事なのです。開いて、他者と出会ってぶつかり合っていかなければ、違う感性で生きている者がいることの存在すら知られないだろうし、世の中の本質的な発展というものは起こらないでしょうから。
ちなみに、「ブロークバック山の案内図」を書いたのは、このブログでもあちこちの記事で紹介させていただいている、NY在住のジャーナリスト北丸雄二さんです。こんな文章が書けるなんて本当にスゴイと思うし、特にこの記事は最高の仕事だと思います。
「yes vol.2」に載っていた経歴によると北丸さんはかつて、文芸誌「ユリイカ」に太宰治や島尾敏男のクイアリーディング分析なども執筆したことがあるらしいので、ぜひ読んでみようと思います。
尊敬すべき文筆家に出会った興奮が、喜びに変わりつつあります。
☆このブログ内で、北丸雄二さんを紹介させていただいた記事一覧
「yes」創刊の波紋001●フツーの感覚で買えるGAY雑誌の衝撃
「yes」創刊の波紋004●アメリカのゲイTV局「Logo」のフツーっぷり
ブロークバック・マウンテンで見る世界003●UAEでも上映禁止
「yes」創刊の波紋006●「vol.2」の購入を前に
●「yes vol.2」
●「yes」オフィシャル・サイト
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