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フツーに生きてるGAYの日常

やわらかくありたいなぁ。

ブロークバック・マウンテンで見る世界012●ハリウッドに刺激をもたらしたのは、アウトサイダーの視点だった。

 前回は岡田敏一記者による分析記事を紹介しましたが、その翌日には、毎日新聞の夕刊に國枝すみれ記者による充実した分析記事が掲載され、注目すべき観点を与えられました。
 今回の授賞式で飛びぬけて注目を集めた2作品、「ブロークバック・マウンテン」と「クラッシュ」には、大きな共通点が2つあります。
 両作品とも(結果的に)アメリカ社会における「差別構造」と「偏見」を浮き彫りにしたということ。そして、両作品の監督ともに「米国人ではない」ということです。
 記事では、多くの記者にとって「予想外」だった作品賞発表直後の「どよめき」に触れた後、両作品の内容を掘り下げて紹介しています。(記事中の「~」は中略を意味します。)

●毎日新聞・3/8(水)夕刊
第78回アカデミー賞授賞式
米国の差別と偏見 えぐった外国人監督
 

 第78回アカデミー賞が焦点をあてたのは、米国社会に巣くう差別と偏見だった。~
 「クラッシュ」は、ヒスパニック系の修理工や使用人を信用しない白人の主婦、白人上司の差別発言には敏感に反応するのにヒスパニックに対するステレオタイプに鈍感な黒人警官などが登場する群像劇。脚本は数年前に出来上がっていたが、テーマが人種差別だけに資金のめどが立たずに難航した経緯がある。
  「見終わって議論したくなるような映画が好きだ。恋人と意見が違って別れる羽目になるような映画が作りたかった」という監督の狙い通り、登場人物は偏見を捨てられず、傷つけ合う。
 ハギス監督はカナダ人。アウトサイダーだから、米国人が当然のこととして見過ごす偏見やステレオタイプに気付くのだろう。「ちょっと待て。今、ここで何が起きた?」
と、周囲の米国人からしつこく聞き出し、アイデアを書き留めてきたことがあとで映画づくりに役立ったという。
  「映画はわれわれの心の中に巣くう疑問をぶつけただけ」というが、会見場では「米国人は性急に物事や人間を判断しすぎる。他人を非難したり、他国を指さして悪だと決め付ける前に、5秒間立ち止まってほしい」 と厳しい批判も口にした。
(ロサンゼルス・國枝すみれ記者)

 「ブロークバック・マウンテン」も、なかなか資金繰りが立たず、構想段階でいったん作品の制作は頓挫。撮影が開始されるまでに8年の歳月を要したそうですが、「クラッシュ」もやはり同じように大きな壁をクリアーして実現した企画だったようです。
 実際、物語の中心人物として、人種差別主義者で悪印象な「白人の警官」が出てきます。恐らくこの役を引き受ける白人の俳優を見つけるだけでも、相当に苦労したのではないかと思われます。
 完成した映画では、若手俳優のマット・ディロンが引き受けて見事に演じきっているのですが、彼にとってもこのような役を演じるのは、はじめての事だったようで、パンフレットのインタビューで次のように発言しています。 

 「これほど極端な人物を演じるのはとても難しかったし、不安もあった。非常に口汚く、怒りに満ちたシーンを演じるのは、自分の心をかき乱すものでもあった。僕は、彼が経験する人間的感情の多くには共感できたが、彼の行動には共感できなかった。でも、僕がこの役に引きつけられた部分は、彼が献身的な男で、父親を愛しているという思いがけない事実だった。
 僕は彼を悪い人間だとは思わない。彼は非常に熱心で、優秀な警察官でもあるんだ。自分の仕事にとても自信を持っているが、それを悪用するところもある。自分の感情とうまく折り合いをつけることができない人間なんだ。」

 スター俳優というのはイメージを大切にするでしょうから、やはり相当な覚悟が必要だっただろうと思われます。しかし彼も言っている通り、この映画には「完全なる悪人」は出てきません。この白人警官の人間描写としても、「悪いことをする面もあれば、素敵なことをする面もある」ことを掬い取っています。そして、そのことを象徴する場面は、この映画の中でも特に印象深い名場面となっています。リスクを承知で出演を決めただろうマット・ディロンの覚悟も、報われたのではないでしょうか。

 「これから同性愛をテーマにした映画の計画はない」という現実

 國枝すみれ記者の記事では、さらに「ブロークバック・マウンテン」についても言及していたのですが、ちょっと気がかりな記述もありました。 

 一方の「ブロークバック・マウンテン」も、同性愛への偏見に苦しむカウボーイが主人公だ。
 監督賞を受賞した台湾出身のアン・リー監督は、同性愛者たちが直面している偏見や拒絶などをていねいにすくいとり、差別の本質を普遍化することに成功した。
 市民組織「同性愛者を差別から守る団体」のニール・ジュリアーノ代表は、今年のアカデミー賞は総じて同性愛者のために役立ったと語った。
 性転換する男性が主人公の「トランスアメリカ」で主役を演じた女優が主演女優賞にノミネートされ、ゲイといわれる作家、トルーマン・カポーティを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンが主演男優賞を受賞していることを評価する。
「映画のおかげで、社会は同性愛についてもっと深く理解してくれたと思う」

 少なくとも、映画会社にとって同性愛はまだタブーらしい。
 ロサンゼルス・タイムズ紙の映画記者、ロバート・ウェルコス氏は5日、「ゴールデングローブ賞で『ブロークバック・マウンテン』が作品賞を受賞したあと、映画会社を取材して回ったが、これから同性愛をテーマにした映画を作るという計画を持っているところはなかった」と話している。 (ロサンゼルス・國枝すみれ記者)

 國枝記者の分析によると、今年、同性愛を描いて高い評価を受けた作品が重なったのは偶然であって、必ずしもアメリカ映画界の風潮が変化したわけでは無いというのが現実であるようです。
 たしかに、上記で指摘されている3作品のうち「カポーティ」はどうやら、作家が同性愛者であったことに焦点を当てている映画というわけではなさそうですし、昨年から今年にかけて、たまたま「ブロークバック・マウンテン」と「トランスアメリカ」の上映時期が重なっただけなのかもしれません。

 しかし上記の映画記者の証言は、あくまでもゴールデングローブ賞の時の話。その後「アカデミー賞報道の効果」でこの作品の知名度は更に上がりましたし、このまま勢いに乗って興行成績が伸びれば事情は変わってくるのかもしれません。
 同性愛を題材にした映画というと決まって付きまとう「マイナー」で「マニア向け」だという従来のイメージを払拭するのはなかなか難しいようですが、もっと大資本が制作するメジャーな作品の中にも「奇をてらわない」「フツーに生きているゲイたち」が、日常感覚のままで存在するようになるべきなのです。近年の黒人たちと同じように。

 興行成績はハリウッドへの意思表示

 アメリカ映画界にとって、日本は注目すべき重要なマーケットの一つ。「ブロークバック・マウンテン」は、すでに東南アジア地域では香港、台湾、韓国等で封切られていますが日本では公開が出遅れました。やっとこれから、満を持して全国公開が開始されます。
 世界の映画市場を席捲しているハリウッド的な市場システムは、単純で薄っぺらい一過性の娯楽大作を量産しています。その体制を揺り動かすことが出来るのは、やはり現実問題としての「興行成績」の結果なのではないでしょうか。
 「アカデミー賞効果」で異例の拡大公開が実現したこの作品の日本での興行成績は、「もっと良質な作品こそ幅広く公開されるべきだ」と願う我々の意思表示にもなるのです。

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川本三郎「アカデミー賞~オスカーをめぐるエピソード~」●BOOKレビュー① 欠席ばかりのキャサリン・ヘップバーン

  「ハリウッド映画」というだけで食わず嫌いしがちな僕は、アカデミー賞にもまったく興味を持たずに、偏った知識のままで映画ファンを続けてきました。
 しかし今年は「ブロークバック・マウンテン」のおかげで、生まれてはじめて興味を持つことになりました。知ってみると、なかなか面白いものですね。

 特に僕はこの本を読んだことで余計に興味を持ちました。川本三郎さんという名文家の気取りのない文章で、アカデミー賞創設当時の歴史や、華やかで大規模になった授賞式での様々なエピソードを、わくわくしながら一気に読むことが出来ます。

●川本三郎著「アカデミー賞~オスカーをめぐるエピソード~」(中央公論新社)

 アカデミー賞とどう付き合うのか。
 その態度からは俳優や監督たちの人生哲学を知ることが出来ます。授賞式で失敗して人間的な醜さを露呈してしまう人もいれば、名スピーチで一気に株を上げる人もいるようです。
 これから数回に渡り、僕が特に面白いと思った話をいくつか紹介しようと思います。

 「欠席ばかりのキャサリン・ヘプバーン」

 大女優キャサリン・ヘプバーンは、驚くべきことに12回もアカデミー賞にノミネートされています。そしてさらに驚くべきことには、彼女はそのうちの1回たりとも、授賞式に出席していないというのです。 

 その理由はただ「大勢の人間の集まるところに行くのは嫌いだから」。
 アカデミーが彼女を何度ノミネートしても授賞式には欠席してしまう。そのうちキャサリン・ヘプバーンの「欠席」は彼女のトレードマークになってしまった。(P32より)

 ちなみに「12回のノミネート」はすべての俳優の中で最多記録。その作品を列挙してみると・・・

1933年度「勝利の朝」(ローウェル・シャーマン)→主演女優賞を受賞
1935年度「乙女よ嘆くな」(ジョージ・スティーヴンス監督)
1940年度「フィラデルフィア物語」(ジョージ・キューカー監督)
1942年度「女性No.1」(ジョージ・スティーヴンス監督)
1951年度「アフリカの女王」(ジョン・ヒューストン監督)
1955年度「旅情」(デビッド・リーン監督)
1956年度「雨を降らす男」(ジョセフ・アンソニー監督)
1959年度「去年の夏突然に」(ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督)
1962年度「夜への長い旅路」(シドニー・ルメット監督)
1967年度「招かれざる客」(スタンリー・クレイマー監督)→主演女優賞を受賞
1968年度「冬のライオン」(アンソニー・ハーヴェイ監督)→主演女優賞を受賞
1981年度「黄昏」(マーク・ライデル監督)→主演女優賞を受賞

 ひえ~。
 最初の主演女優賞受賞作「勝利の朝」の時、彼女はデビュー3作目で24歳。
 そして「招かれざる客」以後の受賞はすべて60歳を過ぎてからだそうですから、これを快挙と言わずしてなにを快挙と呼ぶべきか。しかも主演女優賞を合計4回も獲得してるし。(なんなんだ、この人は・・・)。
 普通、授賞式に出席しないような人は最初からノミネートすらしなくなってしまいそうなものですが、彼女はノミネートされ続けた。それほど演技が人々から愛され、高く評価され続けたということなのでしょう。・・・本物の大女優だ~。

 その彼女がただ一度だけ授賞式に出席したことがあるそうです。1973年度のこと。
 しかもそれは自分のノミネートの時ではなく、長年の友人であるプロデューサーのローレンス・ワインガーデン氏が「アーヴィング・タールバーグ賞」を受賞した時の「プレゼンター」役を引き受けての出席だそうです。

 この賞は、映画界に長年功績を残した人に贈られるものであり、ワインガーデン氏は、彼女が1949年に「アダム氏とマダム」(ジョージ・キューカー監督)に出演した時のプロデューサー。この映画は、彼女にとって最愛のパートナーであるスペンサー・トレイシーとの共演作であり、よほど愛着があったのでしょうか。スペンサーへの愛情もあって、プレゼンターを引き受けたみたいです。

 はじめて授賞式に姿を見せたケイトに会場を埋めつくしたスターたちは総立ちのスタンディング・オベイションで敬意を表した。
 例によってスカートをはかず黒のパンツ・スーツのキャサリン・ヘプバーンは鳴りやまぬ拍手のなかで短くスピーチした。
 「よかったわ。『いまごろのこのこやってきて!』といわれなくて」。
 そして旧友のワインガーデンにタールバーグ賞を渡すとすぐに舞台から消えた。
 彼女は会場にリムジンでやってきてそれを裏口に待たせていた。そしてプレゼンターの役割が終わるとさっさと裏口から姿を消し、リムジンに乗り込んだ。会場での”滞在時間“はわずか15分だった。

 か・・・かっこい~!!これぞ本物の「大物」。
 そして彼女は8年後、なんと74歳にして『黄昏』で主演女優賞を受賞するもののやっぱり欠席。態度が徹底してますね~。
 こちらのサイトに彼女の簡単な経歴が載っていましたが、スペンサー・トレイシーとの関係について面白い記述がありました。結婚は出来なかったけれども、公私ともに最愛のパートナーだったようです。  

 カトリック教徒のトレイシーは宗教上の理由から前妻と離婚しようとしなかったので、始めの頃は密かに会わなければならなかったが、2人は「終生の伴侶」として息の合った名パートナーぶりを披露。67年に心臓発作で倒れたトレイシーの臨終を見取ったのもヘプバーンだった。2人の関係はマスコミの耳にも届き、ハリウッドでは「公然の秘密」だったが、2人とも俳優として尊敬されていたうえに、その愛が美しかったので、マスコミは2人に敬意を払い、後にライフ誌がとりあげるまでこのスキャンダルを報道しなかった。

 スターとしての華麗な生活やファン・サービスを嫌ってスタジオを悩ませる事も少なくなかった。しかし、スクリーンや舞台では、社交的でエネルギッシュながら女性独特の繊細さを併せ持った個性的なキャラクターを的確に演じ、「知的で鋭角的な女優」と呼ばれて世界中の映画ファンに愛され続けた。
        ~ 「素晴らしき哉、クラシック映画!Katharine Hepburnより

 自分の意思を敢然と貫き通す真っ直ぐな人柄だったのですね。生き方にポリシーがあるところが格好いい。僕は正直、彼女のノミネート作12作のうち「旅情」しか観た記憶がないのですが(笑)今後キャサリン・ヘップバーンの出演作は意識して観てみようと思いました。
 こんな面白いエピソードを知らなかったなんて・・・。知識の「食わず嫌い」は良くないですね。

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