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ブロークバック・マウンテンで見る世界007●「アカデミー作品賞」ならず

 アカデミー賞の「保守性」を露呈

 ・・・昨日、3/6は「ブロークバック・マウンテン」のオスカー獲得が最有力視されたアカデミー賞の発表日(日本時間)でした。

 やはり朝から、かなり「そわそわ」してしまいました。この情報を知り得ていた世界中のLGBTたちの多くが、表立って現さないまでも、心の中では同じように落ち着きのない時間を過ごしたのではないでしょうか。
 同性愛を、はじめて「普通のこと」として描いた画期的なこの映画が、もし本当にアカデミー作品賞を受賞するとなると「LGBT史」における一つのエポック(新段階)を迎えることは間違いなかったからです。その歴史的な意義を思うと胸が騒ぎ、居ても立ってもいられませんでした。

 なんだかんだ言っても「アカデミー作品賞」を受賞するという出来事は、強烈なインパクトを持って世界中に情報が伝わります。映画というのは本来、賞を巡って争うものではないし、競争目的で作られるものでもありません。従って僕は、今までアカデミー賞というものにそれほど興味を持ったことはありませんが、今回は特別でした。しかも作品の素晴らしさを実際に見て知り得ていたため、心から「受賞して欲しい」と願いました。

一般的な関心、さほど盛り上がらず

 LGBTにとっては「同性愛を普通に描いた映画が作品賞の大本命らしい」というだけで一大関心事なのですが、一般的な関心度はそれほど高くはなかったようです。無理もありません。日本では「大本命」と言われている作品ですら公開から3日目。作品賞・監督賞候補5作品のうち2作品は公開すらされていないのですから、完全に「蚊帳の外」といった感覚なのです。
 ど~でもいい娯楽大作ばかりがさっさと大規模公開され、小規模だけれど志のある作品が軽んじられているというお寒い現状。図らずも今回のアカデミー賞は、日本の文化後進国ぶりまでもを浮き彫りにしてしまったようです。
 僕が中継を見たビックカメラの電器売り場にあるプラズマディスプレーの前では、立ち止まって興味深く賞の行方をみつめる人は、せいぜい10人程度といった有様でした。(←WOWOWに加入していない者の哀しさ・・・。あ、ちゃんと仕事は昼までに終わらせてから行きましたよ。笑)

 きっと実際にこの作品を観れば、なぜそれほどまでに世界各国で愛され、評価されたのかがわかるし、応援したくなると思います。人生の切なさや機微を繊細に捉えた映画表現の、「進化」と「深化」には感動を覚えました。おそらく同性愛者が身近にいない人々に与える衝撃力も大きいことでしょうし、既成の価値観を根底から揺さぶり、人間の多様性を感じることの出来る「本物の芸術」としての映画です。
 「ブロークバック・マウンテンにアカデミー賞を!」と願い、心待ちにしていた多くの人々は、あの映画のおかげで見えはじめた「新しい地平」の明るさを信じる気もちで一つになっていたのだと思います。

 しかし、アカデミー会員約4500名の投票による多数決の結果は、「クラッシュ」でした。結局「ブロークバック・マウンテン」は、ノミネートされた8部門のうち監督賞・脚色賞・音楽賞の3部門の受賞にとどまりました。

 ショックを隠せないアン・リー監督

 この結果にはアメリカのマスコミにも衝撃が走ったようです。MTV Newsではこのように報道しています。 

 最有力候補とされていた『ブロークバック・マウンテン』が作品賞を逃し、保守的なアカデミー賞での同性愛をテーマにした作品の初受賞は叶わなかった。
 この夜、多くが期待していた『ブロークバック・マウンテン』ではなく『クラッシュ』に作品賞が贈られたことが発表されると、プレス・ルーム中が大騒ぎとなった。
 ロサンゼルスを舞台に、人種や階層の異なる人々が交通事故をきっかけに交錯していく様子を描いたヒューマン・ドラマ『クラッシュ』の受賞は、まったくの予想外。出演者の多い同作のキャストにアカデミー選考委員が多いことが勝利を導いたのではないかと冗談を言う人もいた。
 「こう聞いた方が早いかもしれないな」と授賞式の司会を務めたコメディアンのジョン・スチュワートは、サンドラ・ブロックやリュダクリス、テレンス・ハワードを見てジョークを飛ばした。「『クラッシュ』に出ていない人は手を挙げて」。

 アン・リー監督もショックを隠しきれなかったようです。授賞式終了後に語った本音も紹介されています。

「興行収入ではノミネートされた5作品の中でも我々が最高だったし、ほかの賞も勝ちまくってきたからね。理解できないよ」

 監督自身、この映画を作りこれほどの大反響を巻き起こしたことで、奇しくも自らに大きな歴史的役割が課せられたことを自覚していたと思います。創作動機は純粋なものであったとしても、生み出された作品はものすごく大きく成長する生命力を持っていたのですから。

 予想を的中させた新聞記事

 実は、雲行きが怪しくなってきていることは直前にも報道されていました。 3/5付の「Fuji Sankei Business i」に掲載された「まもなく決定 アカデミー賞の行方は」という記事。
 ロサンゼルスの岡田敏一記者が、授賞式直前の情勢を取材して投票〆切後の状況を把握。彼なりに結果を「大胆に予想」し、ほぼすべて的中させていたので驚きです。「作品賞」についての予想部分を紹介します。

[作品賞]
 世界中が注目する名誉の候補は、最多8部門にノミネートされたゲイのカウボーイの悲恋を描く「ブロークバック・マウンテン」(アン・リー監督)。
 ただし、これまでと同様、「アカデミー会員には、ゴールデン・グローブ賞の作品賞を取った作品をわざと外す傾向がある」(業界筋)うえ、「高齢でひねくれ者で保守的なアカデミー会員がゲイの作品を推すとは考えにくい。マスコミの事前の大絶賛を疎ましく思い、あえて別の作品に投票するのでは」(映画会社の関係者)との声が出始めている。
そう考えて消去法で選ぶと「グッドナイト&グッドラック」(ジョージ・クルーニー監督)は一時間半できれいにまとめ過ぎる。
 地味すぎる「カポーティー」(ベネット・ミラー監督)や、ユダヤ人の立場で描いた「ミュンヘン」(スティーブン・スピルバーグ監督)も難しい。
 そこで、脚本の完成度が卓越しており、ロサンゼルスを舞台に人種問題に切り込んだ通好みの「クラッシュ」(ポール・ハギス監督)が受賞するのでは、ということになる。

 この分析によると「ブロークバック・マウンテン」は、あまりにも多くの映画祭で評価され、映画を観た人々によって愛され「本命視」されすぎたことが、オスカー受賞の面では「災い」してしまったということになります。
 どうにも納得の行かない結果となりました。

 「クラッシュ」を観に行きました。

 そもそも「ブロークバック・マウンテン」を抑えて作品賞を受賞した「クラッシュ」という映画は、なにが評価されたのか。ショックを受けた気持ちを何とかしたかったので、すぐさま日比谷のシャンテ・シネで上映されている「クラッシュ」を観に行きました。

 発表の直後だったため、まだ影響は出ていなかったようです。客入りはまばらで70人ほど。まだ感情的に生々しかった僕としては、予告編で上映された「ブロークバック・マウンテン」の映像に胸が締めつけられてしまいましたが(笑)。

 映画はまさに、「多民族がひしめき合うアメリカ」の現代を象徴するものでした。明確な主人公を置かない群像劇のスタイルで、肌の色や文化的背景が異なる者同士の偏見が生み出す差別意識のぶつかり合う様を、スピーディーにテンポのよい演出で描いていて引き込まれました。映画として印象に残る「強度を持った名場面」も存在し、名画と呼ばれる条件を十分に兼ね備えています。

 観客を常に「現実の暗部・闇」に直面させ続け、そこからなんとか一条の光を見つけ出そうと、もがき続けているかのような映画。アメリカの一都市であるロスアンジェルスの出来事を描いてはいますが、今後の世界の混沌ぶりをも予見させ、鋭い問題提起を果たし得た、とても素晴らしい作品でした。

 「比較」してみた僕の結論

 「クラッシュ」は、「ブロークバック・マウンテン」と同じ年にぶつからなければ、十分に作品賞に値するレベルの映画でしょう。2006年という時代を象徴してもいます。しかし、観客に愛される映画かどうか、何度も会いたくなる映画かというと、僕の見解では疑問符が付きます。
 映画のスタイルとしても革新性があるわけではありません。このように社会問題を直接取り上げて、群像劇のスタイルで複雑に入り組んだ物語をパズルのように組み合わせて描くことは、アメリカのインディペンデント系社会派映画の巨匠(と言われている)ロバート・アルトマン監督が
「M★A★S★H」 「ザ・プレイヤー」等で繰り返し行なってきたことです。スタイルとしての既知感は否めません。しかし、やはり凄い気迫と情熱が込められた映画でもあります。

 映画というものが、もともと「勝負」を目的に作られるものではない以上、比較をすることは野暮なことではあります。しかし「アカデミー作品賞」というものが、その映画が世界中にどれだけの反響を巻き起こし、影響を与えたものなのかを評価して表彰するものなのだとしたら・・・今回の「作品賞」の結果はやはり、納得の出来ないものでした。
 アン・リー監督がアジア人として初の監督賞を受賞したことは確かに画期的な出来事ではあります。しかし監督本人としても作品自体が然るべき評価をされた方が、苦楽を共にしたスタッフや俳優たちと、心から祝杯を挙げられただろうと思います。

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