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フツーに生きてるGAYの日常

やわらかくありたいなぁ。

2006-01
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イ・チャンドン「オアシス」●MOVIEレビュー

刑務所帰りの男が一人、自宅へ戻ろうとする。しかし家族は転居していた。要するに彼の帰宅は歓迎されていないのだ。
男はわざと無銭飲食をして警察に捕まり、保護者として家族は呼び出される。そんな奇妙な場面からこの映画は始まる。

「ペパーミント・キャンディー」のイ・チャンドン監督と俳優ソル・ギョングが次に挑んだのは「社会的に排斥されがちな者同士の恋」だった。
我々の常識を根底から徹底的に揺さぶろうとする野心と、社会風刺的な視線。そして鋭いユーモア感覚は前作よりもさらにパワーアップし、韓国社会の有り様に対して強烈なパンチを喰らわせている。いや~、この監督は本当にスゴイ。本物の芸術家だ。

兄の罪をかぶり、刑務所へ

ソル・ギョングが演じた主人公は、世間ではいわゆる「ちょっと頭が足りない」「知恵遅れ」と揶揄されるタイプの人。自分の欲望を抑えることができず、衝動的な行動をしてしまう。物事の計画性というものを持てない。兄からは「大人になれ」と叱られ続け、弟からは「僕の人生を壊さないで」と非難され、母親からは「息子ではない」と排斥される。それでも彼は、他に行くあてもないので家族と一緒に暮らしはじめる。
彼は表面上はいつも夢見心地で生きている(ように見える)ので「打算」があるように感じさせない。そのため他人から利用もされてしまう。なんと兄弟からも。
怖ろしいことに、映画の冒頭で刑務所帰りである理由は、実は兄が起こした交通死亡事故の罪を被り、代わりに刑務所に入ってあげていたのだ。「俺はどうせ前科があるし、兄さんは家族もあるし。」と、事故の直後に彼が機転を利かせて自ら罪を被ってあげたのだ。

被害者宅での運命的な出会い

そんな主人公はある日、花束を持ってある市民住宅を訪ねる。そこはなんと一年前に兄がひき殺した男性の家族が住むところ。ドアを開けるとそこには、重度の身心障害を抱える女性が暮らしていた。(たぶん事故の怪我によるものだと思われる。)
そして・・・あろうことか彼は彼女に恋をしたっ!
この先はぜひ映画を見て欲しいので書かないのだが・・・二人はついにはセックスまでしちゃうのだっ!(←書いちゃった。笑)。このことを「ありえね~っ」と思うかどうか。この映画を見てから判断してください。

価値の転換

彼ら二人のような「はみ出し者」を人間としては見ず、「排斥する」ことで秩序を保つ現代社会。そして「家族の名誉」という表面的な部分のみを取り繕うことが最優先される欺瞞性を徹底的に暴きだす監督の手腕は見事。

しかし、こうしたテーマを扱う作品にありがちな「啓蒙性」の押し付けがましさや嘘臭さは、この映画には全くない。なぜなら、誰も「聖人」は出てこないからだ。主人公もヒロインも、ずるい所もあれば嫌な面もある。衝動の赴くままに欲望をむき出しにする瞬間もある。ごく当たり前の、聖も俗も併せ持った存在としてちゃんと描かれているから人間描写として深いのだ。なおかつエンターテインメントとしても成り立っている。見ていて楽しいしドキドキ出来るのだ。これはイ・チャンドン監督ならではの絶妙なバランス感覚なのだろう。彼は「他者に開いて行く」ことを自己の哲学として大切にしているのだろうと思う。

演技が見事っ!

この映画の主人公とヒロインは、実は「ペパーミント・キャンディー」で初恋の恋人同士を演じたコンビ。そのイメージのあまりにも強烈な変貌ぶりには圧倒されるものがある。主人公の「能天気な男」を演じたソル・ギョングの変身ぶりもすごいが、「重度の障害」を抱える女性を全編に渡って演じ続けた女優ムン・ソリは本当にすごい!。顔を歪ませ手を反らせ、身体を硬直させながら全身を使って声を絞り出す。彼女の登場シーンでは正直、「嫌悪感」に近いものを感じた。あまりにも徹底しているので直視するのが憚られる感覚に襲われるからだ。しかし、映画を見続けると、そんなことを感じた自分の「美醜意識」も見事に反転させられる。

正常と異常

「障害者」だとか「反社会的人間」というレッテルは、見方を変えたり視点を変えれば本来的には誰に対しても当てはまるものだと思う。だからこそ、表面上わかりやすい形で表出している人たちのことを「異常者」だと簡単に排斥してはならない。誰もが聖と俗、様々なものを共存させて生きている当たり前の人間なのだ。

他人を「異常」だと言って偉そうに説教垂れたり啓蒙しようとする方というのは、いつの世にも存在して人気を得やすいものなのだが、本当に本人は「正常」なのか。「正常」な部分のみで出来ている「聖人」なのか・・・。
自分のことを「正常」だと言い切って善人ヅラする人間ほど異常な奴はいない。本当にそう思う。

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イ・チャンドン「ペパーミント・キャンディー」●MOVIEレビュー

人生をさかのぼる列車に乗って

妻子と別れた。会社も解雇された。今では河原でホームレスとしての生活。いわゆる「社会から落ちこぼれて」しまった主人公ヨンホ。
ピストルを手に入れ自殺しようとするものの、やはり出来ない。だったら自分の人生を狂わせた裏切り者を殺してから死のうとするが、それも出来ない。

そこへ、見知らぬ中年男が訪ねてくる。ヨンホの初恋相手であるユン・スニムの現在の旦那。なんとユン・スニムが事故で瀕死の状態になり、ヨンホにしきりに会いたがっているという。病院に駆けつける途中でヨンホは「ペパーミント・キャンディー(はっか飴)」を買う。かつて軍隊にいた時、手紙と一緒にいつも一粒ずつ彼女が入れてくれた飴。せめて、叶わなかった恋の思い出話でもしようかと思ったのだが、時すでに遅し。彼女の意識は戻らなかった。

ペパーミント・キャンディーという「物」から連想され、過去の記憶が次々と呼び覚まされる、いわば「記憶の旅」。過去へ過去へと掘り進む過程に浮かび上がるのは、すぐに情緒不安定で暴力的になり、人間関係を壊してきてしまったヨンホの哀しい道のり。彼はいつからそんな性質を持つようになってしまったのか。

特に刑事として民主化運動をする学生たちを弾圧して取り調べる際に、彼の暴力性は遺憾なく発揮される。他人に暴力を振るうとき、間違いなくそれは自分の痛みとしても蓄積される。なぜそんなことを繰り返してしまうのか。

記憶を辿ったその先に出現した過去は、彼をこの世に踏みとどまらせることの不可能性を物語っていた。

最近「ウォンビン兵役報道に思う」という記事を書いた時にこの映画を思い出し、グッドタイミングで新文芸坐での上映があったので、5年ぶりにスクリーンで再見した。

5年前には感激のあまり2回見たので今回で3回目になるのだが、やはりよく出来ている。
特に、何度も挟み込まれる印象的な線路の風景は、韓国の牧歌的な田園風景を美しく映し出しながら実は「逆廻し」であり、この映画全体を象徴する秀逸なイメージショットになっている。このイメージの持つものすごい吸引力で、一気に映画の世界に引き込まれるのだ。映画は、一つでもいいから「その映画全体を象徴する画」を獲得した時に、間違いなく成功する。

未来から過去へと時系列を逆に辿る構成であるため、一度見ただけでは細部が繋がりにくい部分がある。だからこそ何度も見たくなるし、見るたびに主人公の心の闇への理解が増す。なにより、映画では説明されないその「本当の原因」について、観客の自発的な思考を促す節度を保っているところがいい。
主演俳優ソル・ギョングの繊細かつ大胆な演技と、イ・チャンドン監督の中に静かに燻る韓国という国の持つ偽善的側面への反逆精神が呼応し合い、奇跡的な成果を上げた。このコンビで3年後に制作された「オアシス」も、さらに過激に進化した素晴らしい映画だった。
長年いがみ合ってきた日韓の最初の文化的共同事業が、こんなに素晴らしい映画だったという原点を忘れてはならないと思う。
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