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フツーに生きてるGAYの日常

やわらかくありたいなぁ。

2006-01
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桃花村舞踊公演「重力と愉快」●PLAYレビュー

大雪の日の夜、自転車での転倒にもめげず(笑)新国立劇場に田中泯さんが主宰する桃花村の舞踊公演「重力と愉快」を見に行ってきました。

僕は以前10年ほど前に新聞の招待券プレゼントが当たったことをきっかけに、田中泯さんがどんな人なのかも知らずに「独舞公演」を見に行ったことがあるのですが、その時はかなりショックを受けた記憶があります。天井から吊られた巨大な鏡を相手に格闘する姿はトゲトゲしく毒毒しいものであり、最終的には全裸になるなど、ウブだった僕にはとても衝撃的な内容でした。

今回の舞台はわりとスタイリッシュにまとめられていました。桃花村という舞踊集団の公演であり、彼は構成・演出・出演を兼ねていたということもありますし、この10年での彼の精神面での変化も当然あるのでしょう。いい意味でも悪い意味でも「洗練」という言葉を連想させられました。

舞台というものは生ものであり、一回性のもの。同じことが二度と繰り返されることはありません。この日は初日ということもあり出演者も硬かったのかもしれませんが、コンセプトや舞台空間と踊り手が、上手く共鳴出来ていなかったようで、残念ながら「舞台の神様」は降りて来ませんでした(・・・まあ、滅多に下りてくるものでもありませんけど。笑)。

それにしても新国立劇場・小劇場という所はどうしてあんなに無機質で冷たい空間なのでしょう。初台にある「新国立劇場」一帯の空間自体、新しくて綺麗で立派なんだけど人間としては落ち着くことの出来ない、「無菌空間の冷酷さ」を感じます。あんな冷たい空間では舞台芸術の「猥雑さ」とか「ケレン味」は発揮されないでしょうし、無駄にデザインや大きさばかりにこだわった、最近の公共施設にありがちな、建築した行政の「威信」ばかりを感じさせる失敗建築。実際にそこで息づくべき人間のことが考えられていないのです。

9・11以降の窒息イメージ

舞台には天井から吊るされたロープで四角いフレームが作られ、ベケットや別役実の世界を連想させる一本の電柱に外灯。他には二本の木が立っています。
そこへ子どもに引っぱられて登場する女や軍服姿の男たちが登場して、フレーム内から逸脱したり戻ったりしながら様々なイメージを現出させて行きます。ロープを端と端で引っ張り合って「対立する者同士」になる男たちは「終わりなき戦争」をイメージさせますし、あまり交感し合わずに自分の世界に閉じこもりがちな人物たちはディス・コミュニケーションに苦しむ現代人を皮肉っているのでしょう。しかし毒気が足りないしイメージとしての新鮮さもあまり感じられなかったのが残念です。

金魚の勝利

最も印象的だったのは、小道具として出てきた「生身の金魚」。
金魚鉢を抱えた女性が、本物の金魚を床に放り出してしまうのですが、真っ赤な金魚がバタバタともがく姿は、それだけで充分に生々しく鮮やかで目を引きます。やがて金魚の動きは止まってしまうのですが、拾われて水に戻されると何事もなかったかのように蘇生します。これぞまさしく「水を得た魚」。
さまざまな哲学的解釈を呼び起こすイメージ描写ではありますが、この日の舞台でいちばん印象に残ったのが、舞踊家たちの動きよりも金魚の「生物としての」意図のない純粋な動きだったというのが皮肉です。よく「子どもと動物には勝てない」ということが言われたりしますが、芸術家としては、ちょっと悔しい結果でもあります。

ホール公演休止宣言

実は田中泯さんは今回を最後に、ホールでの公演はしばらく行わないことを宣言しています。

「踊りは個人的で、衝動に近いものと思っています。踊りたいと思ったら公演まで待たずに踊りたいのです。劇場を否定するのではなく、少し離れて野外など非劇場空間で展開していきたい」

「踊り始めたらそこが劇場になってしまうんです。私の“真実の瞬間”を出せる場所で踊りたい。生き方をもっと踊りに近づけたい。」(産経新聞1/19より)

当日配られたパンフレットにも、英文でその意志が記されていました。
彼の言うことはわかります。舞台芸術家が公演をする際にはまず、2年ほど前に「会場を予約」し、企画書を提出してチラシを作り、やっと稽古がはじまります。さらには宣伝をし・・・ということを繰り返していると、活動がパターン化してきて「義務」になってしまうのでしょう。そうしたサイクルから抜け出したがっている彼の本音の部分が伝わってくる舞台内容ではありました。

ラストシーンは、舞台空間と現実空間を隔てる「フレーム」として使用されていたロープを使って皆で縄跳びを始めるのですが、綺麗につっかえずに飛ぶことが目的なのではなく、様々な人間が共同作業として「遊ぶ」時空間を作りたかったのでしょう。しかし、この日の舞台ではそうした奇跡の瞬間は訪れません。途中で突然、田中泯さんが客先に振り向いて「ありがとうございました」と言って縄跳びを断ち切り、幕切れとなりました。「えっ、これで終わっちゃうの」という中途半端な気持ちになったことは否定できません。

その後、日曜と月曜にも公演があったので、この日の反省や反響をもとにして最終的にどんな形に発展して行ったのかはわかりませんが、初日の上演でいちばん僕の印象に残ったのは金魚の生命力と、演出家として疲れている田中泯さんの「苛立ち」のようなものでした。やっぱり彼の「独舞」を見てみたい。そう思いました。

田中泯さんの次の公演は、宣言どおり野外で行なわれます。
●JADE2006・土方巽メモリアル
田中泯独舞「生理歩測」
地図-01-カラダカラダノダカラダ。
舞踏:田中泯
楽士:大熊ワタル(クラリネット)
楽士:こぐれみわぞう(太鼓)
3/11(土)・12(日)
両日とも開場13:30/開演14:00
新宿・戸山公園箱根山地区にて無料。
大久保通り口の受付に集合(雨天決行)
公園内をあちこち移動するらしいです。
問合せ:JADE事務局 03-5728-2547

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