fc2ブログ

フツーに生きてるGAYの日常

やわらかくありたいなぁ。

2006-01
« 12345678910111213141516171819202122232425262728293031 »

ウォンビン兵役報道に思う

「男だから」徴兵される、お隣の国の現実

ウォン・ビンといえば、近年の「韓流ブーム」のスターの一人として日本でも超有名な韓国の人気俳優ですが、昨年11月29日に兵役についてからすでに一ヵ月半。
最近になって、訓練が終わった後の配置先として、ウォンビン自身が「北朝鮮と向き合う最前線」を志願したことが英雄的に報道されました。
(→ネットでの報道の数々はこちらを参照)

彼ほどの人気スターは若者に多大なる影響がありますし、韓国政府としても兵役拒否者が増加している風潮を変えるべく人気を最大限に利用するでしょう。今後もなにかと彼に関する情報をメディアにリークし続け、利用することは間違いありません。そして、その報道は日本でもマスメディアによって盛んに報じられ続けることでしょう。

韓国では成人男子は必ず2年以上の兵役に就かねばならず、有名スターといえども例外ではありません。(サイト「韓国の徴兵制について」参照。)
「男である」というただそれだけの理由で、若者が2年間も社会から隔絶された環境に入り、国家のために心身を捧げなければならないのです。しかも有事の際には命までをも捧げるのです。そんな制度が、すぐ隣の国で実施され続けているということへの現実感覚が僕には持てません。

男女差別の極み

男だらけの軍隊生活だなんてイジメや理不尽な上下関係にも悩まされるでしょうし、十代の若者ならまだしも、社会経験のある大人が再びそんな環境で「男=兵士」としての訓練を受けさせられるなんて想像できません。なによりもこの制度自体、「男女差別の極み」ではないでしょうか。韓国のLGBTたちは、どんな気持ちでこの不条理を受け入れているのでしょう。とても気懸かりです。

女友達の無責任な発言

以前、仲の良い女友達と話していたら無邪気にもこんなことを言ったので驚いたことがあります。ちょうどヨン様のブームが始まった頃、カッコいい「韓流スター」たちが日本で荒稼ぎするべく続々と来日しはじめた頃のことです。
「韓国の男って男っぽくていいよね~。日本の男たちも兵役につけば、韓国の男みたいにたくましくなるのに~。」
僕は言葉を失い、友達をやめようかと思いました(笑)。そして、そんな風にしか想像できない無神経さと無知さに呆れながら、僕は彼女に説明しました。それがどんなに不条理で危険なことであるのかを。

無辜の民が殺し合わされた過去

韓国では1980年に光州事件という出来事がありました。
光州市の学生や市民が民主化を求めて蜂起し、軍隊と衝突した事件です。軍の武力鎮圧により老人や子供を含む多数の市民が死傷しました。この事件を徹底弾圧した全斗煥将軍はやがて自ら大統領の座に上り、軍事独裁政権を強固なものにします。この時、米軍が軍の弾圧を支持したため、韓国における反米感情を煽る結果ともなりました。

・・・この時に派遣された軍隊とはまさしく「男だから」という理由でたまたまその時に兵役に就いていた、フツーの人たちなのです。いわば同世代の若者たちが「徴兵されているかいないか」の違いによって殺し合いをさせられたのです。軍隊に属しているということは、その期間は「公権力」の一員になるわけで、個人の意志など無視されます。命令には絶対服従の精神が叩き込まれるのは、軍隊組織の基礎中の基礎ですから。

映画「ペパーミント・キャンディー」の静かで痛烈な批判

この事件が人々にもたらした精神的な歪みは、1999年の韓国映画 「ペパーミント・キャンディー」
(イ・チャンドン監督)で鋭く描かれています。
主人公の男性が40代で人生に行き詰まり、自殺を決意します。そして、なぜ自分が人生に希望を持てなくなったのか。その原因を回想して行くスタイルなのですが・・・
深く辿ったその先には「光州事件」での挫折が浮かび上がるのです。

彼は事件当時まさに、軍隊の一員として同世代の若者を殺さざるを得なかった人だったのです。徴兵制によりたまたま徴兵されていただけで、民主化よりも軍国主義化に協力せざるを得なかったジレンマ。人間性の解放を求める同世代の若者たちに、「国家の道具として」非情にも自らの銃口を向けざるを得なかった心の葛藤。
・・・そして彼の心には、深く拭い去れない傷痕が残されてしまうのです。

映画では「光州事件」の文字も言葉も直接出ては来ません。おそらく映画の制作された1999年当時でも、表現上それは許されないことだったのでしょう。当時日本でも公開されたのですが、そもそも日本では韓国の現代史があまり知られていないため、この映画が本当に描いている内容を理解した人は少なかったようです。しかし、韓国の人たちにはわかるのです。そういう映画です。

つい最近まで「軍事独裁国家」としての体制が色濃かった韓国。そこに生きる人々が国に対して感じてきた本当の精神史は、これまで国家が巧妙に覆い隠してきました。光州事件の実態についても報道統制が敷かれ、最近まで詳しく知られることはなかったようです。韓流ブームで親しみを覚え始めた私たちが次に目を向けるべきなのはヨン様の歩いた並木道ではなく、こうした韓国の「深い民衆感情の部分」なのではないでしょうか。

不信を煽って「敵を作る」のは簡単

アメリカの軍産複合体は、せっかく生産した大量の最新兵器を消費するべくイラクの次の攻撃ターゲットを作り出そうとしています。彼らは戦場という「消費の場」に常に飢えています。技術と才能を結集して開発した最新兵器も、消費されなければ意味がないし、企業として儲からないからです。もちろん彼らはアメリカ政府の中枢と密接に繋がり合って政策をコントロールしています。・・・イラク攻撃の結果を見ても、このことは今日では誰もが知っている「常識」ですね。

さてその次なるターゲットとしては、「金正日総書記」という悪魔的キャラクターのいる北朝鮮が有力候補の一つでしょう。それに関連して無視できないのが日本のテレビ報道の動向。

近年、日本のマスメディアでは夕方のニュース等で北朝鮮のテレビ番組を面白おかしく取り上げ、「悪魔的キャラクター」を国民の深層意識に印象付けてきました。視聴率も稼げるらしく、ネタに困ったら北朝鮮の映像を流してお茶を濁しています。
そして今後は、ウォンビンを始めとする日本でも身近になった韓国のスター達の「英雄的兵役任務」を報道することで、次の段階へと国民世論を誘導して行くのかもしれません。NHKによる近年の執拗な「韓流ブーム」作りは、そうした政治的目的があるのではないかと疑ってみたくなるほどです。

政治的勢力がスターの人気を利用するのは、国民に好感度・親近感を持たせる時に行う常套手段。昨年の総選挙の際に自民党が「スター・堀江貴文」を刺客として担ぎ出し、一緒に踊っていたことは記憶に新しいかと思います。時代の寵児であればあるほど、節操なく利用されますし、「スター」の側もそれによるブランド価値の増大を見込むのです。

古くは1957年のアメリカでエルビス・プレスリーの兵役キャンペーンがあります。当時のアメリカ政府は彼の真面目な任務ぶりをメディアに大々的に報道させることで、多くの若者を軍隊に入隊させることに成功しました。その時入隊した若者たちは60年代のベトナム戦争で指導的立場を担い、国を挙げての茶番劇に付き合わされて多くの者が命を落とし、退役後も精神を病んで行きました。一方のプレスリーは2年間の兵役後、さらに「カリスマ」として人気を高めて行きます。

退役後も事あるごとに「兵役を立派に果たしたプレスリー」というイメージは国家によって喧伝されたでしょうし、「スター」としての彼の活動に「箔」を付けたことでしょう。今後、韓国におけるウォンビンはそうした役割を担わされて行くのでしょうか。

もし、彼の兵役中に朝鮮半島で衝突が起きたとしたら、ウォンビンは「絶対服従」の軍隊の一員ですから攻撃に参加することになるのでしょう。そして、ほんの55年前までは分断されてもいなかった、家族や親類縁者がたくさんいるだろう地続きの土地に住むフツーの人々のことを命令に従って殺してしまうのかもしれません。そんな血なまぐさい現実と背中合わせの「英雄報道」であることを、決して忘れてはならないと思います。

軍隊は、男っぽくなるためのトレーニングジムではありません。
FC2 同性愛Blog Ranking


☆関連記事
映画「ペパーミント・キャンディー」新文芸坐で26日上映
イ・チャンドン「ペパーミント・キャンディー」●MOVIEレビュー
スポンサーサイト



HOME |

無料ホームページ ブログ(blog)