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フツーに生きてるGAYの日常

やわらかくありたいなぁ。

2005-08
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深作欣二「軍旗はためく下に」●MOVIEレビュー

夫はどうして死んだのか。真相を求める妻の執念。

しあわせな結婚生活も束の間。わずか半年後に夫が召集され戦場へと出征して行く。
無事な帰還を祈る日々もむなしく・・・。

終戦後、夫はなかなか戻らず、ある日紙切れ一枚となって帰還する。「戦死」ではなく手書きで「死亡」としか書かれていない粗末な紙切れ一枚となって。死亡した場所も、死因も不明。
「そんな馬鹿なことがあってたまるか」と厚生省に通い続ける彼女だが、そうしたケースは山のようにあるためなかなか調査は進まない。
しかも「戦死」扱いではないため補償も受けられない。最愛の夫の死を受け入れられず、宙ぶらりんなまま過ごしてしまった彼女の二十数年。

8月15日。
毎年、まるで儀式であるかのように彼女は厚生省を訪ねる。
主演の左幸子の鋭い眼光が、この女の静かさの中に秘められたナイフの鋭さを感じさせて目が離せない。

人によって食い違う証言。謎は深まるばかり。

その年、やっと厚生省が動いてくれていた。関係者に手紙で聞き取りをしたという。特にめぼしい情報はなかったが、3人だけ返事を寄越さなかった人がいるという。彼女は早速その人たちに会いに行く。

一人目は、ごみ貯めのような埋立地に一人で豚を飼っている男。
彼の証言では、夫は南方の島で勇敢に部隊を指揮し、立派な戦死だったという。
嬉しさに涙がこみ上げるものの、もっと詳しく知りたくなった彼女は2人目、3人目と会って行く。するとどうだろう。まったく違う事実が証言されて行くのだ。
どうやら終戦後、島に残っていた日本軍の内部で軍法会議にかけられ、夫は処刑されたらしい。だから「戦死」ではなく「死亡」なのだ。

彼女は衝撃を受け理由を問いただす。現在は平和な暮らしをしている証言者たちは、なかなか語ろうとはしない。語っていることも本当のことなのかはわからない。
しかし、彼女の心中に潜むナイフの鋭さに圧され、次第に語りだす。
そして、おそるべき戦場の実態と軍隊の腐敗、人間としての極限状況が浮かびあがるのだ。

死人に口なし。戦場の実態は、生き残ったわずかな帰還者が都合よく語れてしまう。

南方の激戦地で生き残り帰還した者といえども、戦後30年も経てば日常をフツーに暮らしているものだ。
実際に戦場でなにがあったのか。戦友たちがどうして死に、自分はどうして生き残ることが出来たのか。語ることが出来るのは、ほんの一握りの生還者しかいない。

証言の食い違いは、そうしたこととも関係しているのだろうか。「記憶」とか「証言」と言ったものの信憑性は、かなり疑ってかからなければならないものである。
そして彼女は気付いて行く。夫の死因は、「語ってはいけないもの」「語ることにより誰かの不正が明かされてしまうもの」・・・そうした種類のものだということを。

人間としての極限。人肉食。

食糧が尽き飢餓状態になれば、日本軍では敗残兵たちの間で「人肉食」が行なわれることも珍しくなかったという。亡くなったばかりの戦友の尻や腕の肉、内臓などを煮て食ってしまうのだ。
これは数々の戦記物や生還者達の証言によって語られていることであり、事実であると言っていい。

ある証言者は彼女にそうした話を語って聞かせ、夫がその罪で罰せられたかのように印象付ける。彼女は衝撃を受けるが、すでに証言というものの信憑性を疑っている彼女は簡単には信じない。証言のどれもが、自分の夫のことを言っているのか、似たような境遇の別人のことを言っているのかすら判断できない、じつに曖昧なものなのだ。

英雄として戦死したのか。
人肉食の罪で処刑されたのか。
それとももっと別の、隠されなければならない事情によるものなのか。

やがて彼女は真相を知る。
それは、最初に会いに行った豚を飼う男の口から語られる。
英雄談はやっぱり嘘だった。
そして彼女は、なんともやりきれない不条理に辿り着いてしまうのだ。

深作欣二監督のグロテスク・ワールド炸裂。どんなに残酷だろうが視覚化して提示。

この映画では色んなパターンの証言を、徹底して映像化し観客に提示する。英雄になったり人肉食者になったりと、様々な状況における夫の姿を丹波哲郎が演じわける。

カメラマンはドキュメンタリー映画界の瀬川浩。柔軟に動くカメラの運動神経はまるで実写を見ているかのようで迫真力がある。
現代の平穏な日々と、極限状況にある戦場との、時間も空間も遠く隔たった距離感を見事に観客に印象付けることに成功している。本当に、いい仕事をしていると思う。

深作欣二監督といえば「仁義なき戦い」や「バトル・ロワイヤル」でもわかるとおり、徹底的に暴力や人間の残酷さをグロテスクに乾いたタッチで提示する名人。この映画でもその持ち味は充分に生かされ、人間の本質が内臓から抉り出されるかのような迫力に満ちた作品に仕上げている。

浜辺で悶える左幸子がすごい。動物としての「女」を強烈に表現。

中でも凄かったのが、主演の左幸子が帰らぬ夫を思って浜辺で波に紛れながら身悶えする場面。
激しく打ち寄せる波打ち際で、火照る「女」の体は夫の愛撫を求めて激しく波と戯れる。
叶わぬ激情に身を焦がし、夫を思い叫びながら浜辺でマスターベーションをしているかのような強烈な求愛の表現に、女というものの持つあたりまえの「業」が刻印されている。そして、夫以外の男には絶対に身体を許さず「後家」として生きる決意をした女の悲しさと強さが、情念の塊となって強烈に表現されている。
僕は今まで女優としての左幸子をあまり知らなかったが、この場面で発散される彼女のエネルギーには圧倒され、素晴らしい女優さんだと驚かされた。彼女の女優人生の中でも代表されるべき名演技なのではなかろうか。
鋭い眼光といい、小柄で生活感あふれる体つきといい、彼女以外にこの役は考えられなかっただろう。

謎解きのサスペンス。謎の先にはさらなる謎が。

観客は主人公と一緒に、遠い戦場の真相を知るべく謎解きを愉しむことが出来る。深入りするほどに衝撃は大きくなり目が離せなくなる。
そしてこの映画のすごいところは、謎が解かれたからといってそこで「解決」するわけではなく、さらに大きな迷宮の存在に気付かされ呆気にとられるしかなくなるということだ。
戦争というもの。軍隊というもの。この国の在りよう。そして人間というもの。
複雑に絡まりあうそれらの糸に、がんじがらめにされたまま死んだ夫。真相を突き止めたところで、いまさら彼女の二十数年は戻ってこない。
浜辺で身悶えた女の情念は、誰が受けとめてくれたというのだろう。

今年は戦後60年。
この映画の主人公達の世代は確実に死期が迫っている。
生々しい情念を持って戦争の時代を生き抜き、愛する者の不条理な死を体験した数々の人生の行く末が、せめてあたたかさに包まれていることを願う。
忘れられないものは、忘れられないものだけど。


「軍旗はためく下に」
製作=東宝=新星映画社 
1972.03.12公開 97分
カラー シネマスコープ
製作・・・松丸青史 時実象平
監督・・・深作欣二
脚本・・・新藤兼人
原作・・・結城昌治
撮影・・・瀬川浩
音楽・・・林光
美術・・・入野達弥
録音・・・大橋鉄矢
照明・・・平田光治
編集・・・浦岡敬一
出演・・・丹波哲郎 左幸子 中村翫右衛門 江原真二郎 夏八木勲 山本耕一

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