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市川哲夫「別離傷心」●『発掘された映画たち』 MOVIEレビュー

京橋のフィルムセンターで開催中の「発掘された映画たち」では、戦時中に日本政府の命令により制作された、戦意高揚プロパガンダ映画も数多く上映されている。
やはり日本人たるもの、60年前に自分の国が何をやっていたのか知っておく必要があるだろう。今日は、ロシアのゴスフィルモフォンドが収蔵していたという1941年(昭和16年)の映画を見に行った。

日本軍と中国人との「心の交流」をプロパガンダ

そもそも「プロパガンダ映画」とは、国民を政府の都合の良い方向へ仕向けるために、政府が号令をかけて作らせるものである。人々が最初から自然にそう振る舞っているのだったら、最初からプロパガンダ映画など作る必要はない。
この映画が作られた1941年といえば、
12月8日に日本軍が真珠湾攻撃を行いアメリカと戦争を開始した年。
すでに1931年から中国大陸やアジアへの進軍は大規模に行われていたので、時はまさしく戦時中である。この映画は政府が国民に、中国大陸に日本軍が進軍することの「正当性」を喧伝するために制作されたものだ。

主人公は中国人女性。彼女の町に日本軍がやってきて駐屯をはじめる。
中国の人たちは執拗に抵抗するが、やがて日本軍と人間的な交流が始まり、次第に打ち解け合い始める。主人公は最後まで抵抗を続けるのだが、ついには心を開き、日本軍を尊敬するようになる・・・というのが大まかなストーリー。
スタジオセットやロケ撮影など、かなり予算をかけて丁寧に制作されている。

あたりまえのように日本語を話す中国の人たち・・・

この映画でまずおかしいのが、中国の人たちが日本語を、まるで「ネイティブ・スピーカー」のように流暢に話すことだ。まずはそこに違和感を覚える。
日本人俳優を使って日本の撮影所で撮影されたらしいので無理もないのだが・・・。

実際の戦場ではもちろん日本軍と中国の人たちの言葉は通じなかっただろうし、抵抗運動も激しく血で血を洗う悲惨な光景が繰り広げられただろう。
そもそも抵抗運動を行う人たちが日本語を進んで使うはずがないのだ。現実の血生臭さに蓋をしたまま、映画はあくまでも綺麗に格好よく、きちっとした身なりの日本軍が順調に町を支配して行く。

当時の観客はこの点について疑問を持たずに見ていたのだろうか。今とは違ってテレビはなく、情報といえば新聞やラジオからの大本営発表のみ。「映像」という形で人のイメージに直接働きかけるものは、映画しかなかった時代である。やはり素直に、見てしまっていたのだろうか。

軍規を乱す者は日本の兵士でも射殺する→尊敬される。

全般を通して単純に美しいエピソードに終始するのかと思いきや、意外にも日本軍の苦戦ぶりが描かれたり、日本兵の中にも悪い奴を登場させて波乱が巻き起こる。
なるほど現実というものはそうは簡単に運ぶものではない。プロパガンダ映画といえどもリアリティーは必要だ。

主人公の中国人女性は美しい日本の女優が演じる。彼女はとても魅力的な美しいチャイナドレスを着こなしていて、色気満点である。(←これ自体、おかしいいのだが・・・笑)。
ある時草むらで、若い日本兵士と二人っきりになったとき、兵士が欲情して彼女を強姦しようとする。彼女は必死で逃げるがあわや・・・というときに、上官が見つけて兵士は射殺される。
「軍規を乱す者は日本人といえども殺されて当然」という観客への教育効果と共に、中国の人から尊敬されるようになるその後の展開に信憑性を持たせる、よくできたエピソードだ。
・・・実際に現地で「権力」を握った兵士たちがどう振る舞っていたのかはわからない。この映画ではあくまでも軍の規律と理性を忠実に保ち続ける日本兵の姿を観客の脳裏に焼き付ける。

ついには日本軍を応援するようになる中国の人々

物語のクライマックス。別の町から中国人ゲリラの攻撃を受けて日本軍がピンチに陥る。
主人公を含む町の中国の人たちは安全な場所に集められ待機しながら、戦ってくれている日本軍の一人一人のことを心配する。普段日本語を教えてくれる日本兵、われわれを守ってくれている日本兵が危険にさらされながらも命を賭けて町を守ってくれている。・・・彼らは感謝の気持ちでいっぱい。すでに町の人たちは「皇民化」されているのだ。
そしてついには、頑なだった主人公の女性の心も日本軍の虜になって行く・・・。
「別離傷心」というタイトルからして、その後きっとこの女性は日本人将校に恋をして、やがては別れるという展開になるのだろうが、残念ながらフィルムは中途半端にここで終わる。後半部分はいまだに行方不明なのだろう。

「良いこと」ばかりではなく「悪いこと」も含めて描くプロパガンダ映画。
逆境を乗り越え、軍規のためなら自己犠牲をもいとわない大和魂の尊さを強調する。
しかし、この物語が語るヒーロー像に魅せられて、どれだけの若者が戦地へ夢を持って旅立ったのだろう。どれだけの母親が、息子の戦地での活躍を思い、涙を流したことだろう。
人間心理を巧妙に計算した、じつによく出来たプロパガンダ映画だ。

戦時中の日本映画。もっと見られるべき。

こうした映画界の「負の遺産」が、つい最近までロシアで眠っていたということ自体が驚きである。本来ならばこうしたものこそ自分たちで保存して、戒めのためにも繰り返し見ておくべきである。後世のわれわれが道を誤りそうになった時の抑止力として、もっと活用されるべきだ。

イデオロギーから自由になった今、われわれの世代だからこそ出来ること。

僕は1973年生まれである。敗戦から28年目に生まれた。
父は8歳の時に、当時「満州」と呼ばれていた中国東北部の「ハルピン」で生まれた。
母は敗戦5日後に、釜山で生まれた。両親とも、いわゆる「大陸からの引揚げ者」である。
僕は幼い頃から両親のそうした体験を聞かされて育ったため、「あの戦争」を身近に感じることができる。しかし同世代の多くはそうではないことも知っている。

祖父の世代が行っていたこと。
それに反発して否定するエネルギーに燃えた、両親の世代。
そのどちらでもない僕の世代。
僕らの世代は戦争を体験していない。そして親の世代ほどの反抗心もない。生まれたときから平和を享受してきた。だからこそ感情的にならずに、冷静に歴史を見つめることが出来る。それが僕らの世代の特権なのだ。

ある特定のイデオロギーによる「色眼鏡」で見ないように。
残された記録や記憶に触れ、あくまでも素直にみつめること。
そこから謙虚に学び、未来を考えること。
・・・僕らの世代だからこそ、やっと「冷静に」 出来るようになった。
やっと、これからなのだ。


「別離傷心」
46分・35mm・白黒・不完全
1941年 日活多摩川
監督・・・市川哲夫
原作・・・伊地知進
脚本・・・岡田豊
撮影・・・山崎安一朗
録音・・・飯田景応
出演・・・山田耕子、永田靖、水島道太郎、鳴海浄、井東日出夫、大町文夫、小峰千代子

・・・中国大陸の村落を支配する日本軍人と村民の“心の交流”を描いた戦時下のプロパガンダ映画。日本人に敵意を抱いて反日ゲリラに協力する中国人女性が、日本軍人の”温情“に触れて徐々に日本軍を受け入れてゆく。監督の市川哲夫は女優市川春代の弟。原作の伊地知進は第12回直木賞候補に選ばれた文学者で、翌1942年には『将軍と参謀と兵』を書いて映画史に名を刻んだ。
National Film Center Webより)

●この映画は8/11(木)15:00からも上映されます。

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☆記事中の画像は、映画とは直接関係はありません。

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