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2023-10
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ウォンビン兵役報道に思う004●ウォン・ビン除隊おめでとう!

 6月7日に除隊、191日の軍生活を終える

 韓国の俳優ウォンビン(元彬/実名:キム・ドジン)さんが韓国軍から除隊されました。軍務による膝十字じん帯断裂の悪化が原因です。

 昨年11月に韓国の軍隊に入隊し、南北軍事境界線付近の警備にあたっていたウォンビンですが、入隊前から悪くしていた膝十字じん帯を損傷してしまい、4月の初めにソウル・江南(カンナム)の病院で手術を受けていました。その後、10日間の休暇を申請しソウルの自宅で過ごし、再び軍に戻り国軍春川病院でリハビリ治療を受けていたようです。

 スターへの重圧という残酷

 彼が「除隊」するほどまでに怪我を悪化させてしまった原因は、スターとして注目されることの重圧を引き受け、無理をしてしまったことにあるようです。

 ウォン・ビンの所属事務所ドリームイーストオンのオ・ギョンハ理事は、先月ウォン・ビンの膝の手術後に「軍に入隊する前から膝の状態が良くなかったが、ウォン・ビンが兵役逃れと誤解されることを恐れ軍入隊した」と強調した。
innolife.net - 2006年5月30日

 さらに痛々しいことに、松葉杖なしには動けない状態であるにもかかわらず本人は、手術後も継続服務を希望してもいたようです。

 最後まで現役で残りの服務を終えたいとして、早期除隊を断っている。軍関係者は「転役審査を控えているが、事実上5級免除判定されるのは確かだ。所属部隊から既にこのような事実を伝えたが、本人が現部隊で継続して服務したいという意志が強いと明らかにしている」と言った。
innolife.net - 2006年5月30日

 疑惑報道も流れる

 ウォンビンの入院が報じられてからというもの、韓国のマスコミでは報道合戦が繰り広げられたようです。半年前には「英雄報道」を盛り上げたわけですから、こうした事態の成り行きは、韓国社会にとっても衝撃的な出来事だったのでしょう。一部では怪我の「疑惑説」も流れたようです。記者と軍当局との、次のようなやりとりを報道したメディアもありました。

- 入隊の前から膝が悪かったと言うが、どうやって南北軍事境界線付近の警備にあたっていたのか。イメージアップのためのパフォーマンスでは、との噂もあるが。

◆入隊前の兵務庁による身体検査では、靭帯の問題までは確認できない。本人が芸能兵ではなく一般兵を志願した。前線部隊に行っても、ローテーションで勤務することになるので、南北軍事境界線付近の警備にあたったり、他の場所で勤務したりしていた。→ライブドア・ニュース - 2006年6月2日

 ウォンビンは当初から、スターだからという理由で特別扱いされることを固辞して自ら前線への配置を希望したとされ、多くの韓国マスコミの称賛を浴びました。そうした「英雄報道」に本人の意志がどれだけ反映されていたのかはわかりませんが、相当に大きな心理的重圧が彼を襲っていたことがわかります。

 リハビリには相当な期間が必要とされるようであり、除隊後の芸能活動もまだ未定。29歳の前途洋々たる真面目な若者に、ここまで無理をさせてしまう韓国軍というシステム。「男だから」という理由で入隊を義務付けられることの心理的プレッシャーは、大変なものだと思います。「男女性別二元論」の基礎の上に成り立ったこのシステムは、性的マイノリティーたちにとっても厳しい現実を突きつけ続けています。

 ウォンビンだけではなく、多くの若者たちが「自らの意志に関係なく」一定期間、国に身を捧げ、命を捧げさせられているという現実の不条理に、今回の出来事が一石を投じることになればと期待します。あくまでもウォンビンをバッシングするのではなく、冷静な議論として。

 とりあえず、僕は今回の除隊のニュースを聞いて「本当に良かったね」と思いました。半年間の不条理な重圧から解放されたウォンビンさんには、しばらくは一個人として、肉体的にも精神的にも休養して欲しいです。彼は「スター」である前に、キム・ドジンという29歳の若者なのですから。そして、また才能溢れる演技と美貌で我々を楽しませて欲しいです。
 よしっ、この機会に映画「ブラザー・フッド」を見るぞ~。FC2 同性愛Blog Ranking

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ウォンビン兵役報道に思う003●同性愛兵士に「性交渉時の写真提出」を求める韓国軍

 このシリーズでは韓国の兵役制度についてゲイの視点から考えているのですが、最近、朝鮮日報のサイトで注目すべき記事が公開されましたので紹介します。

(→2/17の記事「同性愛者」を理由に転役された兵士、昨年は8人より)  

 陸軍関係者は16日、「昨年、同性愛を理由に現役服務への非適合判定を受け、軍服務を中断した兵士は8人に上る」と話した。

 同関係者は「これら兵士は自身の部隊指揮官との相談で同性愛による苦しみを告白したほか、軍は規定と手続きにより現役服務への不適合判定審議を経て転役するよう措置した」と語った。軍当局は同性愛者に対し軍人事法施行規則第56条の「変態的な性的傾向をみせる者は現役服務不適合者に該当する」との規定により、転役措置を下している。

 一方、国防部関係者は、国家人権委員会や同性愛者人権連帯などが軍の刑法第92条が同性愛者への偏見と差別を内包しているとし、これを廃止するよう要求したことに対し、「同性愛を認める方向で法律を改正するのは困難」との立場を示した。
 軍の刑法第92条は単純な同性愛だけではなく、非正常的な方法による性的行為者についても1年以下の懲役刑に処するよう記している。

 「現役服務」から転役させられた場合、どのような任務に着くことになるのかは明記されていませんが、文中にもある通り「現役服務不適合」という扱いになるらしいので、軍隊を退役後もなにかしらの社会的制裁があるのではないかと思われます。

 また、軍隊内部では「同性愛だけではなく、非正常的な方法による性的行為者についても1年以下の懲役刑」とあります。韓国の軍隊は男性のみで構成されているわけですから要するに「他人と性行為」をすることが「非正常的な方法」だとされて罰せられるわけですね。
ぶっちゃけてしまえば、いわゆる軍隊生活においては自慰行為しか「正常な性行為」とは認められていないということ。男としては大変だ~(笑)。2/15には次のような記事も公開されています。
(→ 「性交渉時の写真提出せよ」・・・同性愛兵士の人権被害深刻) 

 人権運動愛の部屋など44の社会市民団体の集まりである「人権団体連席会議」は15日、ソウル鍾路区安国洞のヌティナムカフェで記者会見を開き、「軍隊内の同性愛者の人権被害を糾弾する」とし、早急な解決を求めた。

 同会議は「昨年6月に入隊したある兵士が、自分が同性愛者であるという事実を明らかにし、軍隊内でカウンセリングを求めたが、軍当局はこのような事実に対し秘密維持の約束を守らなかっただけでなく、同意なしでエイズ検査を受けさせたほか、同性愛者であることを証明するため、性交渉の際の写真まで提出させたという内容が同性愛者人権連帯に受け付けられた」と主張した。 「この報告により、軍隊内で同性愛者がどんなに差別を受け、抑圧的な環境におかれているのかが分かる」とし、軍当局の無責任な行動を批判した。

 同性愛者人権連帯の関係者は「男性の同性愛者らが軍入隊を避けることができないという状況の中、同性愛者らはいつもセクハラの加害者として扱われ、自分が同性愛者であるという事実をあたかも罪人のように隠し続け、2年間の兵役に耐えなければならない」と話した。

 罰則規定が設けられている軍隊内で「自分が同性愛者である」と明らかにした兵士は、余程の勇気と覚悟の上で行なったことだろうと思います。それだけ韓国内でも、根本的に男女差別を助長する軍隊という組織への疑問や不信感が強まってきているという証ではないでしょうか。

 国自体が同性愛を禁じているわけでもなく、映画「王の男」の大ブームを見てもわかるとおり、民衆感情としては同性愛への寛容さも併せ持っている韓国社会。
 必要以上に脅威を煽って武器を消費しようとするアメリカの軍産複合体からの圧力が強いのかもしれませんが、そろそろ過去の軍事政権がもたらした影から脱却すべき時が迫っているのではないでしょうか。
 「王の男」ブームの動向とも併せて、注視し続けようと思います。
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ウォンビン兵役報道に思う002●国防省のインタビューと写真公開される

以前「ウォンビン兵役報道に思う」を書いた際にはたくさんの反響をありがとうございました。その後新しい動きがありましたのでお知らせします。2月10日、ウォンビン(元彬)の最新の動向が韓国と日本のマスコミで報道されたのです。

情報源は韓国の国防機関紙「国防日報」。軍隊内部で活動するウォンビンのインタビューや写真が配信されました。閉鎖空間の中にいる国民的スターの動向に飢えている韓国マスコミは、国防省の狙い通りにこぞって取り上げたようです。朝鮮日報のサイトから、インタビューの様子を引用します。

ウォンビンはこのインタビューで
「軍生活の間はスターのウォンビンではない。当分の間、一切の写真撮影やインタビュー、ファンへのサインはしない考え。ただ平凡な軍人として軍生活を送ることに専念したい」とし、
「軍での生活が自分に対する自信につながると思う」とした。
 また、「一緒に服務している部隊員たちが人生の目標を持って軍生活をしているように、僕も人生の目標に向かって軍生活に最善を尽くしている」とし、「2年後に成長した姿でファンの方々に会いたい」とした。

中央日報のサイトでは彼の任務状況を以下のように伝えています。

ウォンビンは、江原道華川7師団隷下のサンスン連隊GOP(地上観測所)大隊・18警戒所で勤務中。04年11月に設けられた新しいテントで、7人の戦友と同じ部屋を使っている。小隊員数は約30人。ウォンビンは小隊の2番手として毎晩鉄さくの警戒に当たっている。7日には、夜間警戒勤務のうち最も厳しいと言われる深夜0時から未明までの勤務組に編成された。同未明、華川付近の体感温度は氷点下20~25度で、強風のなか雪まで降った。

この情報は日本では産経新聞、サンケイスポーツ、スポーツニッポン、スポーツ報知で報道されました。以前からそうなのですが、韓国の兵役に関する報道を最も積極的に欠かさず行っているのは「フジ・サンケイグループ」発行媒体のようです。今回は他のマスコミ各社は報道を見送ったようですが、この情報は明らかに韓国国防省のプロパガンダ色が強いため、賢明な選択だったのではないでしょうか。
「軍での生活が自分に対する自信につながると思う」
「僕も人生の目標に向かって軍生活に最善を尽くしている」
・・・これこそが、韓国社会における模範的な男子に求められる発言なのでしょう。
しかし模範的な「オモテ」の奇麗事の裏には必ず「裏」があるものです。前回の記事のコメント欄に「みどる」さんが寄せてくださった発言を紹介します。

韓流が浸透する中で兵役について色々知りましたが、どうやら兵役を務め上げることは社会的な責任を果たし、一人前の男として認められるために不可欠とのこと。言い換えれば、女性は同じような形で社会的名誉を得たくとも兵役を務める手立てが無いわけで。強制的に軍隊へ送られる韓国人の男性が可哀想な面もありますが、この男性だけの兵役義務は女性差別でもあると思います。

ホモソーシャルな韓国社会

「一人前の男」という言葉が象徴するとおり、韓国社会というものは、軍隊生活を立派に勤め上げることによって生まれる「男性同士の連帯感」(=ホモソーシャルな関係)が非常に濃厚であり、重用視される社会であるようです。
軍隊での過酷で厳しい生活を共有し、同じ苦労を経験したということでの理屈を超えた部分での同士愛=男同士の感情的な結びつき。

当然、女性はその輪の中に入れません。いくら女性たちが社会人として頑張ったとしても「所詮は女。軍隊生活も経験していないくせに。」という感情を、男性たちはきっと、本音の部分で抱えていることでしょう。

また、男性の中にもその輪の中に入れない人が出てくると思います。体力的な理由や、集団生活での人間関係のもつれ等で精神的に追い詰められたりして軍隊生活を「健全に」全う出来なかった男性は「男として失格」の烙印を押されるということでしょうから。
イ・チャンドン監督が映画「ペパーミント・キャンディー」で描いた主人公は、そうした「不器用な」男性でした。元来、気が弱く集団行動ではモタモタしてしまうような、どこにでもいるような普通の人。個人の資質や性格には関係なく兵士として訓練されるので、ちょっとした事故や気の緩みから、取り返しようのないトラウマを抱えるかもしれない危険と、常に隣り合わせの生活を強いられるのです。

軍隊というのは人間を、ある一定の正解=国防のために効率よく動ける人間へと「矯正」する機関です。
しかし当然、人間には「向き」「不向き」があります。国の求める正解を正解だとは思わない人だっています。
「自分には軍隊が向いている」と思う人が選択肢の一つとして選んで入隊するのならわかるのですが、明らかに自分には「不向き」だと感じている者までが強制される制度というのは、いかがなものでしょうか。
ましてや「男性的に」振る舞うことに抵抗を覚えるタイプの人たちやLGBTの存在など、最初から全く無視した制度であると言えるでしょう。

女性たちにとっても、「女性である」という理由で入隊できないというのは、軍隊生活が社会的ステイタスと密接に関係しているのならなおさら不平等です。女性たちの可能性を最初から不条理に規定してしまっているのではないでしょうか。

ウォンビンは国防省のインタビューに「当分の間、一切の写真撮影やインタビュー、ファンへのサインはしない」と発言しているようですが、今後も軍隊内部で彼が模範的に行動し成果を挙げるたびに、国防省の広報部から都合よく情報がリークされ続けるでしょう。きっと本人の意志とは関係なく。結果として、若者たちが本音の部分では抱えているだろう不満や制度矛盾への「毒消し」の役割が、彼に期待されていることは明らかです。

今後、ウォンビンがどのように報道され続けるのか。注目しつづけるために記事をシリーズ化することにしました。今後も、「韓国の徴兵制」についてご存知のことや、周りの友人たちの話などをお寄せいただけると嬉しいです。
この問題に関する僕の最大の興味は、韓国のLGBTたちの本音。表立っては語られないけれど、確実に苦しんでいるだろう彼らの生活について、もっと想像力を持ちたいのです。

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ウォンビン兵役報道に思う

「男だから」徴兵される、お隣の国の現実

ウォン・ビンといえば、近年の「韓流ブーム」のスターの一人として日本でも超有名な韓国の人気俳優ですが、昨年11月29日に兵役についてからすでに一ヵ月半。
最近になって、訓練が終わった後の配置先として、ウォンビン自身が「北朝鮮と向き合う最前線」を志願したことが英雄的に報道されました。
(→ネットでの報道の数々はこちらを参照)

彼ほどの人気スターは若者に多大なる影響がありますし、韓国政府としても兵役拒否者が増加している風潮を変えるべく人気を最大限に利用するでしょう。今後もなにかと彼に関する情報をメディアにリークし続け、利用することは間違いありません。そして、その報道は日本でもマスメディアによって盛んに報じられ続けることでしょう。

韓国では成人男子は必ず2年以上の兵役に就かねばならず、有名スターといえども例外ではありません。(サイト「韓国の徴兵制について」参照。)
「男である」というただそれだけの理由で、若者が2年間も社会から隔絶された環境に入り、国家のために心身を捧げなければならないのです。しかも有事の際には命までをも捧げるのです。そんな制度が、すぐ隣の国で実施され続けているということへの現実感覚が僕には持てません。

男女差別の極み

男だらけの軍隊生活だなんてイジメや理不尽な上下関係にも悩まされるでしょうし、十代の若者ならまだしも、社会経験のある大人が再びそんな環境で「男=兵士」としての訓練を受けさせられるなんて想像できません。なによりもこの制度自体、「男女差別の極み」ではないでしょうか。韓国のLGBTたちは、どんな気持ちでこの不条理を受け入れているのでしょう。とても気懸かりです。

女友達の無責任な発言

以前、仲の良い女友達と話していたら無邪気にもこんなことを言ったので驚いたことがあります。ちょうどヨン様のブームが始まった頃、カッコいい「韓流スター」たちが日本で荒稼ぎするべく続々と来日しはじめた頃のことです。
「韓国の男って男っぽくていいよね~。日本の男たちも兵役につけば、韓国の男みたいにたくましくなるのに~。」
僕は言葉を失い、友達をやめようかと思いました(笑)。そして、そんな風にしか想像できない無神経さと無知さに呆れながら、僕は彼女に説明しました。それがどんなに不条理で危険なことであるのかを。

無辜の民が殺し合わされた過去

韓国では1980年に光州事件という出来事がありました。
光州市の学生や市民が民主化を求めて蜂起し、軍隊と衝突した事件です。軍の武力鎮圧により老人や子供を含む多数の市民が死傷しました。この事件を徹底弾圧した全斗煥将軍はやがて自ら大統領の座に上り、軍事独裁政権を強固なものにします。この時、米軍が軍の弾圧を支持したため、韓国における反米感情を煽る結果ともなりました。

・・・この時に派遣された軍隊とはまさしく「男だから」という理由でたまたまその時に兵役に就いていた、フツーの人たちなのです。いわば同世代の若者たちが「徴兵されているかいないか」の違いによって殺し合いをさせられたのです。軍隊に属しているということは、その期間は「公権力」の一員になるわけで、個人の意志など無視されます。命令には絶対服従の精神が叩き込まれるのは、軍隊組織の基礎中の基礎ですから。

映画「ペパーミント・キャンディー」の静かで痛烈な批判

この事件が人々にもたらした精神的な歪みは、1999年の韓国映画 「ペパーミント・キャンディー」
(イ・チャンドン監督)で鋭く描かれています。
主人公の男性が40代で人生に行き詰まり、自殺を決意します。そして、なぜ自分が人生に希望を持てなくなったのか。その原因を回想して行くスタイルなのですが・・・
深く辿ったその先には「光州事件」での挫折が浮かび上がるのです。

彼は事件当時まさに、軍隊の一員として同世代の若者を殺さざるを得なかった人だったのです。徴兵制によりたまたま徴兵されていただけで、民主化よりも軍国主義化に協力せざるを得なかったジレンマ。人間性の解放を求める同世代の若者たちに、「国家の道具として」非情にも自らの銃口を向けざるを得なかった心の葛藤。
・・・そして彼の心には、深く拭い去れない傷痕が残されてしまうのです。

映画では「光州事件」の文字も言葉も直接出ては来ません。おそらく映画の制作された1999年当時でも、表現上それは許されないことだったのでしょう。当時日本でも公開されたのですが、そもそも日本では韓国の現代史があまり知られていないため、この映画が本当に描いている内容を理解した人は少なかったようです。しかし、韓国の人たちにはわかるのです。そういう映画です。

つい最近まで「軍事独裁国家」としての体制が色濃かった韓国。そこに生きる人々が国に対して感じてきた本当の精神史は、これまで国家が巧妙に覆い隠してきました。光州事件の実態についても報道統制が敷かれ、最近まで詳しく知られることはなかったようです。韓流ブームで親しみを覚え始めた私たちが次に目を向けるべきなのはヨン様の歩いた並木道ではなく、こうした韓国の「深い民衆感情の部分」なのではないでしょうか。

不信を煽って「敵を作る」のは簡単

アメリカの軍産複合体は、せっかく生産した大量の最新兵器を消費するべくイラクの次の攻撃ターゲットを作り出そうとしています。彼らは戦場という「消費の場」に常に飢えています。技術と才能を結集して開発した最新兵器も、消費されなければ意味がないし、企業として儲からないからです。もちろん彼らはアメリカ政府の中枢と密接に繋がり合って政策をコントロールしています。・・・イラク攻撃の結果を見ても、このことは今日では誰もが知っている「常識」ですね。

さてその次なるターゲットとしては、「金正日総書記」という悪魔的キャラクターのいる北朝鮮が有力候補の一つでしょう。それに関連して無視できないのが日本のテレビ報道の動向。

近年、日本のマスメディアでは夕方のニュース等で北朝鮮のテレビ番組を面白おかしく取り上げ、「悪魔的キャラクター」を国民の深層意識に印象付けてきました。視聴率も稼げるらしく、ネタに困ったら北朝鮮の映像を流してお茶を濁しています。
そして今後は、ウォンビンを始めとする日本でも身近になった韓国のスター達の「英雄的兵役任務」を報道することで、次の段階へと国民世論を誘導して行くのかもしれません。NHKによる近年の執拗な「韓流ブーム」作りは、そうした政治的目的があるのではないかと疑ってみたくなるほどです。

政治的勢力がスターの人気を利用するのは、国民に好感度・親近感を持たせる時に行う常套手段。昨年の総選挙の際に自民党が「スター・堀江貴文」を刺客として担ぎ出し、一緒に踊っていたことは記憶に新しいかと思います。時代の寵児であればあるほど、節操なく利用されますし、「スター」の側もそれによるブランド価値の増大を見込むのです。

古くは1957年のアメリカでエルビス・プレスリーの兵役キャンペーンがあります。当時のアメリカ政府は彼の真面目な任務ぶりをメディアに大々的に報道させることで、多くの若者を軍隊に入隊させることに成功しました。その時入隊した若者たちは60年代のベトナム戦争で指導的立場を担い、国を挙げての茶番劇に付き合わされて多くの者が命を落とし、退役後も精神を病んで行きました。一方のプレスリーは2年間の兵役後、さらに「カリスマ」として人気を高めて行きます。

退役後も事あるごとに「兵役を立派に果たしたプレスリー」というイメージは国家によって喧伝されたでしょうし、「スター」としての彼の活動に「箔」を付けたことでしょう。今後、韓国におけるウォンビンはそうした役割を担わされて行くのでしょうか。

もし、彼の兵役中に朝鮮半島で衝突が起きたとしたら、ウォンビンは「絶対服従」の軍隊の一員ですから攻撃に参加することになるのでしょう。そして、ほんの55年前までは分断されてもいなかった、家族や親類縁者がたくさんいるだろう地続きの土地に住むフツーの人々のことを命令に従って殺してしまうのかもしれません。そんな血なまぐさい現実と背中合わせの「英雄報道」であることを、決して忘れてはならないと思います。

軍隊は、男っぽくなるためのトレーニングジムではありません。
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